第17話 なにも知らない用無しハンター

「ほら、これでおしまいね」


 桜田先輩の言葉で俺の意識は現実に引き戻される。あぁ、俺ってもしかして用無しなのかな。そう思わされた。


「いやぁ、桜田先輩って本当に強いんですね」

「そういう修也くんこそ、英雄って言われてるでしょ。私がいなくなったあともジムに行っててくれたのね」

「まぁ、それなりに楽しかったんでね」

「でも、これからはこの私がいれば修也くんはわざわざ闘う必要なんてないわ。見ていてくれればそれでいいから」


 うぅ〜ん。そうやってはっきりと言われると少し悲しくなるんだよなぁ。

 男なのに、女性に守ってもらってる感じがするというかなんというか……。

 どんな難易度の高い討伐クエストですら桜田先輩は一人で難なくこなしてくれている。

ありがたいと言えばありがたいのだろうけれども、俺も少しは役に立ちたいという気持ちはある。

 俺ってもしかして、ただの見物人みたいな立場なのか?

 うーん、と唸っていると、桜田先輩の背後からなにやら植物系の魔獣が近寄ってきているのに気がついた。


「桜田先輩、危ないっ!!」

「シューヤさん、待ってください!」


 リリーは、なにも考えずに飛び出した俺を止めるが、そんな忠告を聞くことはなかった。

自分の先輩がやられるところを黙って見ているわけにはいけないだろ!

 俺の二倍以上の高さを持つ魔獣の頭の近くまで飛び上がり、拳を握りしめた。


「これでも食らいやがれ!必殺、激龍拳げきりゅうけん!!」


 突き出した拳は相手の頭部に直撃し、それは破裂して消失していった。


「うぅ……なによこのドロドロしたやつ……」

「これはローションフラワーの粘液です。攻撃性はなく、本来私たちハンターには無害なものなんですが、倒してしまうとこのように粘液が飛び散ってしまうので、できればあまり関わらないほうがいいんですが……」


 なるほど。だからリリーは俺を止めようとしたのか。やっぱり俺って必要なかったりする?


「もう〜、これちょっと臭いんですけどぉ……」


 桜田先輩は粘液をモロにかかってしまったらしく、顔までドロドロになってしまっていた。

——ん?これ、ちょっとヤバくないか?


「修也くん、取ってくれない?——って、なにしてるの?なんで私の前でぼーっと立ってるのよ」

「まぁまぁ、しばらく待ってくださいよ。今、ですから」


 彼女の前に立った俺は、粘液まみれになったその顔を見下していた。この姿勢、すごくイイっ!!なんだかイケナイコトをしている気分だ……!


「ちょっともう、いっぱいかけすぎよ……。臭いもキツいしどうしたらいいのよ」


 ぽとぽとと地面に滴る粘液。ゆっくりと身を伝って彼女の体を汚していく。

 良い、良い、良いぞコレー!!


「…修也くん、もしかして最低なコト考えたりしてるでしょ」

「いやいやぁ、そんなことないですよ。桜田先輩は失礼だなぁ。自分の後輩も信じられないだなんて」


 やれやれと左右に首を振っていると、彼女は『嘘つき』と呟いて、俺のブツを触った。


「はひっ!?」

「体は素直みたいねぇ。……こんなときに、さいってー!」


 このとき、俺には二つの選択肢が与えられた。ブツを捨てて女として生きるか、もがき続けながらも男として生きるか。

 突き出された拳が俺の下半身にあるブツを直撃した瞬間、俺は死を覚悟した。それと同時に、生きている証である、とてつもない悲鳴が平原に響いた。  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る