第16話 なにも知らないギルドメンバー

——どうしてこうなったのだろうか。


 俺はどこかで道を踏み外してしまったのだろうか。

 自分のほうに向けて突き出された剣の先を眺めて、ゴクリと喉を鳴らした。

 なにか間違ったことをしてしまったわけでもない。ただ、俺たちはみんなでクエストを受けようとして街のギルドにやって来ただけなのに。どうしてこんなことになってしまったんだ。


「さぁ、白状しなさい、高城修也。なぜあなたのような下劣な人種が結衣様と一緒にいるの?そしてなぜ、あなたと結衣様が一緒にクエストを受けるの?素直に答えるというのなら、痛みを感じる隙も与えずに一瞬で殺してあげます」

「——なにも答えないと言ったら?」

「殺します」

「結局一緒じゃないか!!」


 まったくもう。もしかしたらこんなことになってしまうんじゃないか、なんて予想もしていたが、本当に起こってしまうとはな……。

 なんだかため息をついてしまう。


「別にいいだろ。俺と桜田先輩は知り合いだったんだ。だから、再会して一緒にクエストを受けにきたんだ。そんなことに悪意なんてないだろ?ほら、あんたも受付嬢なんだから、そんな物騒なものしまってくれよ」

「そうよ、マリーちゃん。修也くんは私の大事な後輩なの。だから、その剣をなおしてもらえる?」

「うぅ……、結衣様がそうおっしゃるのなら」


 ほんと、この子は桜田先輩のことが好きなんだな。一瞬で言うこと聞いたし。

 それにしても、案外可愛らしい名前してるんだな。男嫌いの性格からして、もっと強そうな名前だと思ってた。なんなら、心の中では委員長と呼んでいたほどだしな。

 そんなことを思っていると、彼女は突然俺を睨みつけてきた。


「——もし、結衣様に変な気を起こしたらただじゃおきませんからね?」

「分かってるって!そんなこと一切しないから!」

「え!?してくれないの!?」

「どうして桜田先輩が悲しむんですか!」


 こんな調子じゃ先が思いやられるな……。

そう頭を抱えて悩まされていると、リリーが俺のことを撫でにきた。

 慰めてくれているつもりなのだろうか。


「リリー……」


あぁ、お前だけが俺の唯一の理解者になってくれるのか?

ニコッと彼女は微笑む。


「シューヤさん、私だったらいつでもオーケーですよ!」

「……」


 グッと親指を立ててくるが、なにもグッドじゃない。むしろ、俺の期待を裏切ったほうだ。

そうだよな、異世界なんてこんなもんだよな。

新入りには優しくない世界なんだよな。

地球でもそうだったよ……。

 厳しい下積み時代を思い出してしまう。


「それはそうと結衣様、あなたはご自分のギルドはどうなさるのですか?」


 あ、本当だな。委員長の言う通り、桜田先輩はギルドのリーダーだとかなんとかだったはずだ。

 なんかメンバーが俺を襲いにくるとかいう展開になったら全く面白くねぇから勘弁だぞ……?   


「それなら大丈夫よ。抜けてきたから」


 そうかそうか。抜けたなら安心だな。

桜田先輩はもうそのギルドには関係ないってことなんだな。


「——って、えぇ!?そんな簡単に抜けていいもんなんですか!?」

「んー、分かんないっ☆」


 うわ、軽すぎるーー。

これって、メンバーの人たちに恨まれるやつじゃんこれ!リーダーを奪ったのはお前か、って展開になるやつじゃんこれ!

この先どうやって生き延びようかと考えていると、ギルドの扉がドンと勢いよく開けられ、そこにはスキンヘッドの大男を中心に、十人ほどのハンターたちが立っていた。

 杖をもった女性や、メリケンサックを付けた男。それに、大剣を背負った男も並んでいる。

 おいおい、これって桜田先輩のいたギルドの人たちじゃねぇのか……?

ってか、よく見たら『サクラダファミリア』って書かれた旗持ってるやついるし!!


「おい、お前がタカギシューヤか?」

「い、いえ、違いますぅっ」


 別に大男が怖くて嘘ついたわけじゃないぞっ。こんなところで争いを起こしたくなかっただけだぞっ。


「嘘つけやぁっ!!」

「はひぃっっ!嘘つけって言うからつかせていただきましたぁっ!」


 地面に額を叩きつけた。

どうだ、これが大人の土下座ってやつだ。

せめて、命だけは助けてもらおう。

それが無理なら、優しく殺してもらおう。


「おい、もう一度きくぞ。お前がタカギシューヤなのか?」

「……はい」

「そうか」


 だんだん足音が近づいてくるのが分かった。

どうしよう、首落とされるやつなのかこれ!?

え、待って?ここって死んだらどういう風に処分される?もし、服脱がされるならムダ毛とか剃っといたほうがよかったのかな?

いや、でもある程度は残ってたほうがいいのかな?

 大男は俺の目の前までやって来て、なぜか土下座をしだした。


「ウチのリーダー、幸せにしてやってください!このままだと一生独身だと思って俺たち心配してたんです!!」

「へっ?」

「外見だけはよくても料理は一切できず、とても大雑把で酒癖も悪い!酔っぱらったときの決まり文句は、愛されたい!いつまで経っても男っ気が一切なく、この際じゃんけんで負けたやつがリーダーと結婚してやろうって話になってたんです!それで俺が負けてしまって……。夜逃げしようかと思っていたとき、リーダーはあなたのもとへ行くと仰ったのです!どうか、どうか彼女を幸せにしてやってください!」


 お願いします、とメンバーたちは頭を下げた。

んー、なんだか複雑な気分だ。

知りたくなかったことが暴露された。

それにほら、あんたたちの元リーダー、うしろで殺気立ってるぞ。

 桜田先輩は大男の足下に剣を突き刺した。


「アンタ、それ以上言ったらどうなるか分かってるわよね?」


 ほら、言わんこっちゃない。

俺はしぶしぶ彼女の腋の下に腕を通し、拘束した。


「早く逃げろ!」

「すまねぇ、恩に着るぜ!」


 ガウガウと吠える先輩とともに、サクラダファミリアのメンバーたちを見送った。

 まぁ、生きているということだけに感謝するとしよう。


「どうどう」

「こら、リリー!煽ったらだめだろ!」

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