第13話 なにも知らないふたり1
どうしてこうなっちゃったの?
リリーちゃんと二人、歯を食いしばりながら建物の陰から睨んだ。
「どうしてあなたのお母様と修也くんがデートしてるのよ!」
「そんなこと私に聞かれても知らないですよ!気がついたらシューヤさんとお母さんがあんなことに……」
知らないのも仕方がないわよね……。
彼女も私と同じような状況なんだし。
それにしても、修也くんったらあんなにもデレデレしちゃって。もしかして人妻趣味でもあったのかしら。
「サクラダさん、あの二人行っちゃいますよ!追いかけないと!」
「そ、そうね!」
彼の趣味について考えているヒマなんてないわ。リリーちゃんに促され、私も二人の後を追った。
なかなかいい雰囲気じゃない。
修也くんは、お母様に腕を引かれ、鼻の下を伸ばしながらデートを楽しんでいるようだった。
可愛いお店を見てまわったり、女子高校生にウケそうなクレープ屋さんに行ったり、羨ましすぎる!
本当だったら、あそこのポジションは私がもらうはずだったのに!
でも、一つだけ気になることがあるのよね……。
そう、それもとても重要なこと。
「リリーちゃんのお母様って、他の男とデートしてても大丈夫なの?」
不倫だなんだと大問題になって、最終的に修也くんが刺される的な展開なんかになったら本当に嫌よ。というか、本人はそういうことは一切考えていないのかしら……。
そんな質問をすると、リリーちゃんはなぜか微笑んで返してきた。
「お父さんは——いえ、お父さんだった人は、浮気して家を出て行っちゃいました」
「えっと、ごめんなさい。そんなこと聞いちゃって」
「いえ、私もあの人のことあまり好きじゃなかったので大丈夫ですよ。いっつも私のことをいやらしい目で見てくるので嫌だったんですよ」
「そ、そうなのね……」
「はい、だから気にしないでください!」
どうしてこの子はこんなにも嬉しそうなのかしら……。いや、今はそんなことよりもあの二人よね!
「シューヤさん、ほら、あ〜ん」
「あ〜ん」
うぅ、あんなにもイチャイチャしちゃって!
あとで絶対にいじめてあげるんだから!
うわ!お母様も、修也くんにくっつきすぎよ!
そんなにもくっついたら、む、胸があたるじゃない!
デレデレし続ける修也くんの顔がなんだかムカついて、手元に転がっていたソフトボールを投げてやった。
「よっしゃ、命中!」
そうやってガッツポーズをしていると、クイクイと袖を引っ張られるのに気がついた。
「どうしたの?」
袖を引っ張っていた小さな女の子に問う。
なぜかその可愛らしい瞳が、うるうるしている気がする。
「おばちゃん、あれわたしのぼーるなのに……」
「えっ、そうだったの!?ごめんねぇ。——というか、私はまだおばちゃんなんて言われるような歳じゃないわよ!!」
「ひぃっ、ごめんなさぁぁぁいっ!」
女の子は泣いて逃げて行ってしまった。
「あーあ、女の子泣かせちゃいましたね、サクラダさん。大人げないですよ」
「うぅ、反省するわ……」
まさかリリーちゃんに叱られる日が来るだなんて。これは本当に反省しないといけないわね。でも、これは修也くんのせいでもあるもん……。
「ほら、見てくださいよ。サクラダさんのせいで、シューヤさんあんなことになってますよ」
彼女の言う通りに、私は修也くんたちの方を見た。うわぁ、流石にあれは引くわ……。
ボールを頭に直撃させた私も悪いけど、それを慰めるために修也くんを抱くなんて。
なんか、胸に顔埋まってるし。
まんざらでもなさそうだし。
言ってくれたら私もしてあげたのに……。
「これはサクラダさんのせいですよー」
「わざわざ言われなくても分かってるわよ」
「これからどうするんですか、私たち。あのままじゃお母さんに取られる気しかしません」
「んん、そうね……」
彼が優柔不断じゃなければ、私たちがもっと純粋なアピールをしていれば、こんなにも頭を抱えることはなかったのだろうか。
なぜかそんな疑問が頭に浮かんだ。
これから先、どうなることやら……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます