第12話 なにも知らないお母さん

「あらあら、まさかサクラダファミリアのリーダーさんまで手篭めにしていただなんねねぇ」

「いや、その言い方はよしてくださいよ……」


 桜田先輩とリリー、そして彼女のお母さんに囲まれながら正座をしている俺。

 うむ、どうしてこうなったんだろうか。

どれほど考えても答えは出そうにない。

むしろ、これ以上考えていると頭がパンクしそうだ。


「修也くん、ここで白黒つけてちょうだい。私とリリーちゃん、どっちを選ぶの!」

「わ、私を選んでくださるのなら、毎晩好きなだけお相手してさしあげますっ……!」


 そこまで顔を赤くするならそんなこと言わなければいいのに……。というか、そんなキャラだったっけ。俺は二人の勢いに圧倒され、言葉を失う。


「修也くん、あっちの世界で仕事中にチラチラ私の胸を見ていたわよね?——もし私を選んでくれるのなら、好きにしちゃっていいのよ?」


 桜田先輩は、そう言いながら俺の腕に胸を押し当ててきた。うおっ、なんだこの柔らかさは!?

 今まで、女性の胸はマシュマロのようなものだと思っていたけれども、それ以上に柔らかいぞ!!

——気をしっかり持て、修也!!


「さ、桜田先輩ってそんなことするような人でしたっけ……?」

「んー、違うわ。でも、こっちの私がホンモノよ。だって、日本でこんなことして嫌われたらイヤじゃない」

「それはこっちでも一緒なんじゃないんですか?」

「こっちだったら、地位も権力もあるからなんとかなるかなーって」


 うわ、この人よくこんなこと笑顔で言えるな。俺の好きだった先輩はどこに……。

 あぁ、涙で明日が見えない。そうやって感傷に浸っていると、左腕にもむにゅっとなにかが押し付けられた気がした。


「胸だったら私だってあるんですからね!シューヤさんが望むのでしたら、私はこんなことだってできますから!」


 リリーは、力強く俺の手を引っ張られたと思ったら、それを自分の服の中に突っ込んで胸の方まで持っていった。そして、俺の手はすぐに、すべすべで柔らかなモノの頂点の突起までたどり着いた。


「んんっ……!」

「ちょっとリリー!?お母さんが見てる前でなにやってんの!?」


 とっさに彼女のお母さんの方に目をやるが、あらあらと言いながら微笑んでいるだけだった。自分の娘がこんなことされてていいのかよ!?うぅっ!いつの間にか俺の右手まで桜田先輩の服の中に入ってるし!


「——さぁ、どっちを選ぶの!!」


 こんな状況でそんなこと聞かれてもまともな答え出せるわけねぇだろ!

 うぅ、仕方ねぇ、そこまで言うのなら答えてやる!


「俺が選ぶのは、リリーのお母さんだぁぁっ!!」

「……へっ!?」


 彼女は頬を赤らめ、静かに驚いた。

今の俺にはどっちかを選ぶとかそんな話は早すぎるからな。巻き込んで申し訳ないとは思うのだが、仕方あるまい。

 いつの間にか俺の両手を掴む手の力がだんだん抜けていくのに気がついた。

 二人は魂が抜けたような状態でなにやらブツブツと呟いているようだった。


「すみません、お母さん。こんなことに巻き込んじゃって。でも、俺なんかにはまだこんな話は早すぎる気がしちゃって……」

「あらあら、気にしなくていいのよ」


 案外さらっと許してくれた。これが大人ってヤツなのかな。


「それじゃあ、早速デートに行きましょうか」

「へ?」


 今なんて言った?

俺の聞き間違いなんかじゃないよな?

でもそんなものすごいことを澄まし顔で言えるわけないよな……?

そうだ、俺の聞き間違いだろう。

リリーや桜田先輩が耳元で騒いだから、ちょっとおかしくなったんだろうな。

 再び彼女の方に目をやると、ニコッと微笑み返して彼女は口を開けた。


「どうしたんですか?デート、ですよ」

「……え、ええぇぇぇっ!?」

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