第7話 なにも知らないパレンティーア2

「シューヤさん、実はついて来てほしいところがあるんですけどいいですか?」

「うん。いいよ」


 リリーに腕を引かれて連れて行かれたのはこ綺麗な武器屋だった。

店の中には当然様々な防具や武器が飾られている。


「さぁ、選んでください、シューヤさん!」

「え、俺?」

「そうです。これからハンターになるシューヤさんには必ず必要なものだと思って」

「んー、そう言われてもなぁ……」


 じっくりと店にある鎧を眺めてみる。

確かに頑丈そうだけど、どう考えても重いんだよなぁ。これだと絶対に動きが鈍くなる気がするし。


「ごめん、俺はどっちかって言うと素手で戦いたいから、必要ないかも……」

「防具もいらないんですか?」

「重いのはちょっとね」

「確かに、シューヤさんはお強いですもんね!」

「そんなことはないけども……」

「それでも、これは付けてくれませんか?」


 リリーは瞳を潤わせて、赤に輝く籠手を俺の前に差し出してきた。少し悩むが、ここで断るのは申し訳ない気もする。


「分かった。付けさせてもらうよ」

「ありがとうございます!私からのプレゼントです。受け取ってください」

「こちらこそありがとう。使わせてもらうよ」


 こうして俺たちは武器屋を出た。


「おい!Bクラスの魔獣が門の前に出現したらしいぞ!早く逃げろ!」


 街が騒がしい。

Bクラスの魔獣が出現した、と言いながら街の人たちは慌てている様子だった。


「シューヤさん、私たちも行きましょう!」


 かなり切迫している様子でリリーは俺の手を引っ張った。

 Bクラスの魔獣がどれほど危険なのかは知らないが、この様子を見る限りある程度の覚悟が必要なのだろうと俺は悟った。


・  ・  ・


「見てください!あれです!」


 連れてこられたのは、街を囲む巨大な壁の上で、そこから他の一般人たちも様子を見ていた。

 中に入るための門の前で数十人のハンターたちが集まって魔獣と対峙していた。


「なんだか魔獣というよりも人間みたいだね。それも剣士の……」

「ヒト型のようですね……。あれじゃあどう足掻いてもあの人たちでは勝てっこないです!」


 黒い炎のようなヒト型の魔獣はゆらゆらと剣を構えて空を切った。

その途端、前衛で盾を構えていた男たちが次々と倒れていった。

 それを合図に、ハンターたちは恐怖で体を震わせながら強く剣を握りしめ、一斉に魔獣に飛びかかっていったが、それも一瞬でなぎはらわれてしまい、上で見ていた住民たちは一人、また一人と恐怖で逃げて行く。


「リリー、この街にはアレと戦えるハンターはいないの?」

「います。ですが、今は他の街へ行ってしまっていて不在なんです。だから……」


 彼女は震える手をぎゅっと握りしめて目を逸さなかった。立ち向かいたいというその勇気は誰にも負けていないのだろう。


「分かった。じゃあ俺が行くよ」


 リリーから貰った籠手を両手に装備し、立ち上がる。

——高さは数十メートルといったところか。

このまま飛び降りたら確実に死ぬな……。


「待ってください!どうするつもりですか!」

「どうって、アレを倒しに行くだけだよ」

「そんな!いくらシューヤさんでも無理ですよ!」

「大丈夫。俺もここで終わる気はないから」


 それだけ言い残して飛び降りた。

 思っていたよりも高いかも⁉︎

 壁に手をつけ、その摩擦で落下する勢いを殺し、なんとか着地することができた。


「待たせたね。きみの次の相手は俺だ」


 近くで見ると威圧感がすごい……!

身長も百八十はありそうだし、剣を持っている。油断は禁物だな。

 覚悟を決め、拳を顎の前で構えた。

 もちろん、膝の震えは止まりそうにない。

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