第6話 なにも知らないパレンティーア1
「シューヤさん、今日は一緒にお出かけしませんか?」
転移してから2日目の朝。目が覚めた俺の顔を覗き込みながらリリーがそう誘ってきた。
窓から差し込む朝日が彼女の髪を輝かせる。
誰かに起こされるって何年ぶりだろうか。
そんなことを思いながら俺は体を起こした。
「あぁ、もちろんいいよ」
「やった!」
小さくガッツポーズをして子どものように可愛らしく反応する。
よっぽどお出かけに行きたかったのかな。
「それじゃあ私、準備してきますね!」
「うん。俺もそうさせてもらうよ」
・ ・ ・
リリーに連れられて外に出るのはこれで二度目だが、いつもこの街は賑やかだと思う。
パレンティーアというこの街はとても穏やかで笑顔が溢れているいい場所なのかもしれない。
「シューヤさん!見てくださいこれ、可愛くないですか?」
リリーの家を出て少し歩いたところにあった店で彼女は立ち止まり、指をさした。
どうやらここはアクセサリーなどを売っている店らしく、その指の先には綺麗な髪留めが陳列されてあった。
シンプルな銀の細い髪留め。
それには小さな紫に輝いた石のようなものが埋められてあって、なかなか良いワンポイントになっている。
「へー、リリーに似合いそうだね、これ」
近くに行ってじっと眺めてみた。
すると、店主が俺のほうに近づいてきた。
「おや、彼女とデートかい?」
店に陳列されたアクセサリーたちを眺めているリリーのほうに視線をやってそう言ってくる。
「いや別にそんなんじゃなくて!」
「はっは!別に恥ずかしがることはないさ。この髪留めをプレゼントするのかな?宝石に魔力も込められていてなかなか高価なものだけど、喜んでくれると思うよ」
「そうできたらいいんですけども、お恥ずかしながら持ち合わせがなくてね……」
頭をかいた。こちらの世界にきたばかりで俺はまだ無一文なのだ。これからハンターとしてやっていくつもりではあるのだが……。
「んー、そりゃそうだろうねぇ。見たところきみは地球から来たんだろう?」
そう言って舐め回すように俺のことを見つめる。
リリーといい、この人といい、美人が多すぎてちょっと緊張しちゃうよな……。
「おや、その腕につけているのはなんだい?」
「これは腕時計ですけど、どうかしました?」
「ほう、ウデドケーと言うのか。もし良ければそれとこの髪留めを交換しないかい?」
「交換、ですか……。なるほど、じゃあお願いします」
少し戸惑ったが、すぐに決断して時計を腕から外した。この世界では持っていても意味がないような気がしたからだ。時計を店主に差し出し、俺は髪留めを受け取った。
「この髪留めはね、先も言った通り魔力が込められてあるんだ。きっと、大切な人を守る力になると思うよ」
大切な人を守る、か。リリーにとってお守りになるってことなのかな。
「ありがとうございます。それでは早速渡してきますね」
「あぁ。こちらこそありがとう。末長くお幸せに」
髪留めを受け取った俺は、幸せそうに店のものを眺めているリリーのほうへ行った。
なにか珍しいものを見た赤ん坊のような表情でそれらを眺める彼女はとても可愛らしく感じた。
「ねぇ、リリー。ちょっといいかな」
「なんですか、シューヤさん」
「手を出してくれないか?」
「こう、ですか?」
前に出された彼女の手の平にそっと、髪留めを置いた。
「もしよければ受け取ってくれないかな」
「わっ、私にですか!?」
「うん。きみなら似合うと思ってさ」
「でも、これ高かったんじゃ……。地球から来たばかりのシューヤさんがどうやって……」
「んー、俺が身につけてたものと交換してくれたんだ」
「そんな!もしかしてシューヤさんの大切なものなんじゃないですか!?」
「あはは、そうでもないよ。この世界じゃ使えないものだったから。俺がしたくて勝手にしたことだし」
そう言うと、リリーは顔を赤くしながら髪留めをつけた。
「——変じゃないですか?」
「うん。似合ってると思うよ」
「ありがとうございます、シューヤさん!」
突然飛びついてきたリリーに驚きながらもなんとかそれを受け止め、支えた。
俺の胸の中で、彼女は顔を上げて微笑む。
「大事に使いますねっ」
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