第5話 なにも知らない受付嬢

「あのー、すみません…ハンターに登録してほしいんですけど」


 全て受付嬢に任せれば大丈夫だとリリーから聞いたのだが、本当に大丈夫なのだろうか。

面倒な手続きなどはないのだろうか。

 そんなことを心配しながらギルドの受付嬢に声をかけた。少しお堅い雰囲気を纏ったお姉さん。黒縁のメガネをかけていてキリッとした黒髪ロングのお姉さん。クラスに一人はいるというか、いてほしい委員長キャラのような見た目の人だ。


「では、まず年齢をお伺いしてもよろしいでしょうか」


 イメージ通り、言葉遣いもなかなかお堅い……。


「歳は三十三です」

「意外ですね。もっとお若いのかと」

「いやいや、そんなことないですよ」


 なにか不思議なカードを取り出してそれに書き込んでいるようだった。

 これが俺のハンターカードになるのだろうか。若いと言われて頬が緩む。筋トレ頑張ってきた甲斐があったなー。


「次は氏名を……」

「あ、名前ですか?」

「いえ、分かるので結構です。——ゴウ カンマさんですね」

「ちょっと待って!ものすごく悪意と憎悪を感じるんだけど!」

「エルフの女性の耳を急に触るなんて……。これだから男どもは。全員、ち○こ落ちたらいいのに」

「小声で言ってるつもりだろうけど全部聞こえてるからね!?」

「おや、失礼しました。私、生まれつき男性が嫌いなもので」


 意外と裏表の激しい性格なんだな……。


「それにしても、生まれつき男が嫌いって……もしかして……」

「はい。処女ですがなにか?」


 決め台詞かのようにメガネをくいっと上げて言い放たれたその言葉に衝撃を覚えた俺はなにも言い返せず戸惑ってしまった。


「——処女ですがなにか?」

「分かった!分かったからもういいって!女性がそんなことを軽々しく口にするもんじゃないよ!」

「変態のくせにかっこいいこと言ってどうするんですか。私の心の中はすでに結衣ゆい様に支配されているので、あなたの入る隙は一切ありません。そもそも私、レズですので」

「分かったから……。ほら、俺の名前は高城修也。変態ではなく、善良な一般市民だ」

「一般市民ですか」

「そこ強調しなくていいから」

「出身地はどちらで?」

「んー、この世界じゃないんだよね。東京……いや、日本って言えばいいのかな」

「ニホンですか……?」

「そうそう。地球にあるんだけど」

「ち、地球ですか!?」


 受付嬢がそう驚くと同時に、今まで騒いでいたハンターたちも動きを止めてこちらに視線を集めた。


「えっと、なにかまずいことでも言ったかな」

「地球といえば、あの結衣様が生まれ育った星と同じじゃないですか!」

「俺、その結衣って人が誰なのか知らないんだけども……」

「私が教えてあげた人ですよ、シューヤさん。大きなギルドを作ったっていう」


 仲の良いハンターと一緒に酒を飲んでいたはずのリリーがやって来て教えてくれた。


「なるほど。そして、その人がきみの想い人ってことか、受付嬢さん」

「もちろんです!あの汚れを知らない真っ直ぐな瞳!風に揺られる髪はまるで純白の天使の羽のような!うへっ、うへっ、それを私がこの手でゆっくりと汚していくことを想像すると……!」

「あの、よだれ出ちゃってるよ」


 あぁ、この人、俺のこと言えないくらいに変態だ。受付嬢は俺に指摘されて我に返り、よだれを拭ってカードを渡してきた。


「あなたのランクはF。まぁせいぜい頑張ってください。結衣様と同じ出身だからって自分に特別な力があるなんて思い込んではだめですよ」

「ご丁寧に忠告ありがとう。こう見えても俺はちゃんと自分自身のことは分かってるつもりだから」


 それだけ言って俺とリリーはギルドを出ようとして、ちょうど中に入ってきた女性に肩をぶつけてしまった。


「あっ、ごめんなさい。ちゃんと前を確認していなかったわ」

「いえ!僕の方がすみませんでした!行こうか、リリー」

「は、はいっ!」


 大きな問題になる前にこの場から離れよう。

 やっぱり絶対に怒ってるし……。

彼女が俺のことをずっと目で追っているのが分かった。肩よりも下まで髪を伸ばしていて、細長い剣を帯刀していた。

 特徴は覚えたぞ!よし、これからは会わないように気をつけておこう!

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