第2話 なにも知らない女の子のカラダ

 後頭部に伝わる柔らかい感覚。

 そういえば俺、オヤジ狩りに遭って……そのあとどうなったんだっけ?

 重たいまぶたを少しずつ開ていくと、ぼやけた視界の中に女性の顔が映った。——とは言っても胸がそれをほとんど遮ってしまっているのだが。

 この胸の大きさはIくらいはあるんじゃないか……?もしかして桜田先輩?それにしては少し耳が長いというか尖っているというか。

付け耳みたいなやつなのかな。

流石にホンモノじゃないだろうし……。


「——桜田先輩、なにかのコスプレですか?」


 ゆっくりと腕を伸ばして耳に触れた。

その途端、彼女は悲鳴のようなものをあげ、俺の左頬をぶってきた。それで目が覚めた俺は、その女性が明らかに桜田先輩ではないということに気がついた。金色の綺麗なロングヘアと、とても整っていて、少し幼さが残っているような彼女の顔つきは先輩のものではないとはっきりと判断できた。


「いてて…急になにするんだよ」


 頬を赤らめて俺を睨みつけてくる。

なにかまずいことしたっけ?

そんな疑問とともに何処からともなくフライパンが飛んできて、俺の頭に直撃した。


「なんでこんなところにフライパン……がっ」


 こうして俺は再び意識を失った。


・  ・  ・


「あっ、気がつきましたか!?さっきはすみませんでした……。そのっ、突然みっ、み、耳を触られたもので……。初めてだったからびっくりしちゃって。もう起き上がれそうですか?」


 再び目を覚ますと、俺にフライパンを投げてきた女性が申し訳なさそうな表情を浮かべて俺の顔を覗き込んできた。さっきもそうだったがやはり俺は膝枕をされていたらしい。うん、最高の感触だよ。


「いや、俺はまだまだ起きられそうにないかな。もう少しこの太ももを堪能——じゃなかった、もう少し休憩しないと、起き上がったら死んじゃうかもしれない」

「うぅ、打ちどころが悪かったんですね。本当にすみませんでした……」


 あ、ちょっと胸が痛い。おじさん胸が痛いよ。こんな純粋な女の子を騙しちゃったなんて。ものすごく落ち込んじゃってるし、今更冗談だったなんて言ったら次はなにが飛んでくるか分からないし、今はこのままでいようか。


「それより、耳を触ってあんなにも驚かれるだなんてね。少し変わった子だねー」

「私が変わってるだなんて、そんなことないですよ!女性の耳を突然触るなんてハレンチです!」

「どうしてそうなるの……」

「——いみする……から……」

「ん?なんて言った?」


 俺が耳を触ったときと同様に彼女は頬を真っ赤に染めてボソッとなにかを呟いた。


「えっちがしたいということを意味するから……です。私、初めてでしたし、命の恩人ですが、あなたのことをなにも知らないので……」


 その言葉を聞いて俺はなにも返せなかった。

疑問が多すぎたからだ。耳を触ってえっち?俺が命の恩人?

 ただでさえ容量の悪い頭がショートしそうになる。


「えっと、俺が命の恩人ってなんのこと?多分、人違いじゃないかな。こっちは逆に襲われてた方だしさ」

「いいえ!人違いではありません!!」


 そう言い張る彼女の勢いに圧倒されて、ついつい飛び起きて正座をしてしまった。


「あ、もう起き上がって大丈夫なんですね」

「あはは、おかげさまで」

「そ、れ、で!ちゃんと聞いてください!あのとき魔物に襲われていた私を助けたのは間違いなくあなたなんです!死を覚悟していた私の前にあなたが現れて、大きなオークを拳一発で……。だから私の命の恩人なんです!」


 んー、たしかにそう言われると話の辻褄があうというかなんというか。殴ったときの感触も人のものじゃなかったし……。でもちょっと気になるのはオークっていう存在だよな。女性を襲って好き放題するというような漫画があるのは知ってる。別に、それを読んだことがあるかないかは気にしないでくれ。


「ここって、いったいどこなんだ?もしかしてだけど地球ではないよね?」

「やっぱりあなたも地球からいらっしゃったのですね!最初、言葉が全然分からなかったので焦りましたよ。今は私の魔法でお互い理解できるようにしています」

「俺からしたらここは異世界ってことか。でも、あなたもってことは他にも?」

「はい!それはそれはとても美しい方で、今は大きなギルドを立ち上げていると聞きます」

「そうなんだ……」


 少しほっとした。自分以外にも同じ境遇の人がいて、しかも美人だってよ。

 待ってろ!いつか絶対拝んでやる‼︎

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