愛されたいと思ってしまった・・・

醜いニヒルの子

第1話 ルーツ 1

 

 私の祖母は、朝から晩まで家族のために、どんな日でも丁寧に食事の支度をして、手を抜くことはなく、いつも愛情に溢れた人だったそうだ。いわゆるいい家柄といわれるヤツで、生まれ育った島の領主の娘だった。


 ある日、メイドと共に買い出しに出かけると、村人から敬愛の眼差しと、挨拶を欠かすものは誰もいなかったし、またある日は、いい肉が魚がと貢いだものも多く、村でも信頼を得ている一家だったのだ。そんな名家に生まれた祖母をほっておく者は少なくない。そしてついに祖母は祖父との出会いを果たした。祖父は馬に乗って、家まで迎えに来るような、ドラマティックな恋愛をしていたそうで、祖母は祖父と家庭を持った。

 

 祖父と祖母には、男児が3人と女児の2人を授かり、メイドを数人抱えたこの家庭は、笑いの絶えない賑やかな日々を過ごしていた。多くの人に愛されたこの家庭が、あんなにもあっけなく崩壊するなど誰も予想できなかったのだ。この頃の家族写真を幼いころに見たことがある。お城のように大きなお屋敷の前に、家族が勢ぞろいした写真で、まるでサウンドオブミュージックのジャケットかと思うほど、豊かな暮らしを送っていたのだろうと容易に想像できた。


 祖父と祖母はこの島の領主にあたる系譜にあたり、島の中心にある村には、この家系の者であれば、いつでも好きに住める一軒家が建っていて、この家を出入りする人々をロイヤルブラッドと敬意をこめて呼んでいた。そんな祖父母たちの子供は、成長して親に認められようと自立するもの、すねをかじる者や、勉学に励み医学の道に進むものもいた。


 兄弟たちは酒に女にだらしなく、遊び歩ては浪費を繰り返す生活を送っていた。気付けば借金を作り、祖父母は土地を売り金の工面をしているうちに、領地のほとんどを失ったのだ。今では、やせた大地の山をいくつかと、島の中心にある僅かな土地と家を残すだけになってしまった。


 姉妹たちは早くから親を助け、長女は海外の医者の家庭に嫁ぎ子供を授かり、安定した家庭を築いた。末っ子の次女も看護師となって真っ当な道を歩んでいったのだが、多くの土地を失い、権威をも失った祖父は病で亡くなり、一人になった祖母は長女のそばへ引き取られたが、孫の私を抱いた後に、長女の家族に看取られ幕を閉じた。祖母は家族を愛し、家族になるものを愛し、優しく女性らしい人だった。きっと道を逸れていった子供たちすらも、最後まで愛し、見守っていただろう。 


 そんな家族の中に、私の父となる人物がいたのだ。彼は根は優しいのだが、時折自由奔放な性格が顔を覗かせて、家族を巻き込み振り回してきたのだから、彼の人生は穏やかに過ごすことを許されてはいないだろう。


 そんな私の父にも愛らしい一面もあるのだ。幼少時代から遊び過ごした時間の中では常に音楽があふれていて、魅了されたのも頷けるほどあちらこちらから音楽が流れていた。こうなれば、誰もが思春期の時代に、同じように経験したであろう。ミュージシャンにあこがれるといヤツだ。親のすねをかじる日々に反省し、将来有名になって恩返ししようと、バンドを引っ提げて移民することを決意したのだ。こんなとんだ思い上がりから、後の私が育つことになるこの国へ渡ってきたのだ。

 

 父は私の育つこの国では、そこそこに恵まれたルックスで、そこそこの人気を得て、そこそこ活躍する道を進んでいくのだ。タレントのように扱われて、街は洋楽に恋焦がれた時代であったことも総じて、ちやほやされて自信をつけながら男名利に尽きるを絵にかいたような青春時代を過ごしていった。そうして過ごした時間の中で、この国の言葉を身に着けてコミュニティを広げていたのだろう。


 バンド活動は順調で、あちこちのクラブで営業させてもらうことができ、順調に暮らしていた父のもとに、祖国で離婚をした弟が、子供を残してやってきた。彼は父のバンドのドラムとしてバンドに加わることになった。


 こうして兄弟でバンド活動していく中で、弟は新しいパートナーと共に暮らし始めるようになり、その縁で父のバンドはレギュラーで演奏できる店を紹介され、巡業生活から徐々にレギュラー出演できる店にいることが増え、そんなある日運命の出会いを果たすことになるのだ。



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