第8話 忘れっぽいのよ

新しい拠点も手に入れた。

あとやらなければいけないこと、それは、情報収集と仲間作りだ。

やけに高級そうなふかふかのソファに俺は身を委ね、俺は考える。


真白海子。

こいつは、この世界のバグのような存在だと俺たちはしている。

理由1、同じ動きを繰り返すNPC的存在だったから。

それは、真白海子の話を聞く限りループするごとに記憶がリセットされるからだということが分かった。

理由2、協力する姿勢この殺し合いを強制する世界に抗おうとする意思が見られること。


まだ、真白海子の存在が読みきれない。

こいつは1日ごとに記憶がリセットされる。

そのせいで、現状を理解するだけで1日が終わってしまう。それを繰り返してきた。

だがいざ情報を聞き出すとして、こいつに何が話せるか。

今真白は何が何やらという感じで状況も何もわかっていないだろうに。

そんなやつを連れても意味なんてあるのだろうか。

こいつの殺し合いに巻き込まれるのも正直疲れた。

俺ははあ、とため息をつきソファに体をしずめる。

高級ソファはそんな俺をやさしく包み込む。

俺の気苦労などつゆ知らず、真白はどでかいガラス窓から夜景を眺めている。

こいつはなんでこんな状況で平然としていられる?

警戒心というものがないのか?

能天気な頭がうらやましい。

いやな記憶もすべて忘れられるのだから、案外本人にとっても都合がいいことなのかもしれない。

ふと、隣にゆうが腰掛ける。


「おつかれみたいだね、けんしょー」

いたずらっこみたいな笑みをゆうは浮かべる。

子どもらしい大きな丸い瞳が俺を見る。

俺はそっけなく答える。

「下の名前で呼ぶな」

「もう慣れたくせに。よく飽きないね、それともそんなにその名前が嫌いなのかな」

ゆうはたまに子どもらしからぬなにもかも見透かしたような顔をすることがある。

その顔が俺は嫌いだ。

見られたくない殺したいくらい大嫌いな自分をもこいつには知られてしまっているような感覚。

俺はゆうから視線を外す。

「で、どうするよ」

「どうするって?」

「真白海子のことだよ」

ああ、といってゆうは夜景をうっとりと眺めている真白を見る。

「お姉さんにはこの世界のゲームのこと、それに記憶がリセットされてることははなしたよ」

「そうじゃない。

あいつが本当に、この世界から抜け出す糸口になりえるのかって話をしてるんだ」

あーそっち?とゆうは少し笑う。


そもそも真白がキーパーソンになると言い出したのは、こいつだ。

こいつは頭がいい。

だいたいの発言は的を得ているし、俺よりは格段に頭が回る。

俺はこいつの言葉を信じて真白に声をかけ続けていまここまで話をすすめてきた。

だが正直言って、本当にこいつが役に立つとは正直思えない。

俺が疑いの目を向けるとゆうは余裕そうなむかつく顔で俺を見る。


「君は前回、僕らの感覚的には昨日のループからお姉さんは確実に変わってきてると思わないの?」

俺が首をかしげるとゆうはソファから身を乗り出し、真白を見る。


「お姉さんの髪型。今日ハーフアップなんだよ。

今まではおろしてたのに、だよ。

そして昨日の最後に会ったとき、そのときはハーフアップにしてた。」

「つまり、今回あいつはループしていないっていいたいのか?」

俺が聞くとゆうはあっさりと首を振る。

「なわけ。もしそうなら、服はびしょびしょだろうしなによりお姉さんは僕らのことおぼえてるはずでしょ。」

たしかにそうか。

今回もいつもと変わらず、真白は俺たちのこともこの世界のことも何も知らなかったようだし。

ループはしてる。

ゆうの言うとおり、髪型はたしかにいつもと違った。

だが、本当にそれだけだ。

………あ。


「子どもが、来るのが今回は以上に早かった」

俺は思ったことをそのまま口に出す。


いつも、俺と真白が会うのは、真白が子どもを撒いたときだ。

だけど今回は、子どもはすぐ近くにいて、しかも俺と会話をしてきた。

あの子どもはあきらかにこちら側だ。

ループする世界で、記憶をもち、学習していた。

そう思っていたが、もしかしたら違うのか?

あの子どもも真白海子と同じように、記憶がループごとにリセットされていて、今回、なんらかのきっかけで記憶がリセットされなかったとしたら?

今回のことも説明がつく、のか?


ゆうを見ると俺の考えていることを肯定するかのようにうなずく。

「ほんとのことはわかんないけど、あきらかにに変化が生じているのは確かだ。

お姉さんが何も知らなくても、あのちっちゃい子ならなにか知ってそうだったんじゃない?それに、僕たちの違いを探すってだけでも十分貴重な情報になるよ。

あ、それとも……」

ゆうがからかうように俺を見る。

「見殺しにする?」


「あ?」


俺がにらむとこわいこわいと笑いながらゆうはソファを下りる。


「彼女のことをもっとしってから、考えようってはなしだよ。これは焦って判断を急ぐべき案件じゃあないでしょ」


「そうか」

俺は顔を伏せる。


思ったより、俺は事を急ぎすぎていたのかもしれない。


___早くこの世界から抜け出したい。


そんな思いが、前に出すぎたのだろう。


俺はポケットに入れたスマホを確認する。

もういつの間にか朝の5時になっていた。


また、すぐに夜の11時に戻る。


妙に心地いい眠気が俺に襲い掛かり、俺はゆっくりと瞼を閉じる。

次、次こそ。

なにかが変わってこの世界の均衡を壊して、普通の朝がまた俺にも訪れることを、俺はひそかに祈った。
















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世界で一番嫌いな君と八月三十二日の夜 流川縷瑠 @ryu_ruru46

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