第7話 ゆうくんち
家を出ると、やっぱりまだ雨が降っていて止む気配はなかった。
傘をさしながら、スマホで時間を確認する。
01:03
ループするまで約四時間。
それまでには、他に拠点を探しておきたい。
俺は地図アプリを開く。
あの鼠色の壁の家は、俺がいつも決まってループする場所だ。
目が覚めたらあそこにいる。
だから、あそこと真白海子がいつも走っている道から近く、気取られない場所がベストだ。
そんな都合の良い場所、あると良いのだが。
スマホの画面をスクロールしながら気がつく。
俺のループした時の初期位置はあの家だが、ゆうは?
あいつはいつも、俺が目を覚ます時には決まってあの家にいる。
けど、それは俺と行動するようになってからの話だ。
つまり、あいつの初期位置は別にある。しかも、割とあの家から近いところに。
そうでもなければ、俺が目を覚ます時にあの家にいることはできないだろう。
俺は舌打ちをする。
……あいつ、分かってて俺を行かせたな。
俺はスマホをポケットに入れ、傘を閉じる。
扉を開けてズカズカとそのまま家の中に入る。
「あれ、早い」
真白が驚いた顔でこちらを見る。
俺はゆうを睨みつける。
ゆうは、にやにやと笑っていた。
「お前……やったな」
「え、何が?」
とぼけたふりをしながらゆうは俺の前に立つ。
「あと、今日の部屋は土足禁止だから」
ゆうはしゃがみ込むと俺の靴を無理やり脱がせる。
……さっきは何も言わなかった癖に。
それにここは倉庫みたいなところだから、土足でもいいだろ別に。
めんどくさい。
だがゆうの模様替えのせいで、おしゃれなリビングに見えるので仕方なく靴を脱ぐ。
ゆうは満足したように頷く。
「でも、まさか本当に探しに行くとは思ってなかったよ。考えれば分かるでしょ普通(笑)」
舌打ちを打つ。
こいつやっぱり面白がってやがる。
人の不幸を啜って生きてる悪魔なのだこいつは。
「とりあえず、これ以上からかったらけんしょー泣いちゃうし、教えてあげるよ僕の家。」
ゆうは俺の隣を通り過ぎ、家を我先にと出ていく。
「あの、私はどうすれば?」
真白が困ったような顔でこちらを見る。
俺は少し考えた後、
「ついてこい」
と言った。
「僕がいつも目を覚ました時いる場所、ゲームでいうセーブポイントはね、ここから少し歩いた位置にある。」
ゆうは呑気に歩きながら、話始める。
ゆうは妙に子どもっぽい黄色い雨合羽を着て、俺と真白は一つの傘を二人で使っている。
全部ゆうがあの変な家から出したものだ。
あの家は、なんでもポケット並みにいろいろなものがある。
これはゆうと出会ってから分かったことだ。
「雨も好きだけどさ、やっぱり雨上がりの晴れた空が一番好きだなあ僕は」
水たまりをばしゃりと踏みながらゆうはそんなことを言い出した。
俺はそれに冷静に答える。
「晴れることなんてねえのはわかってるだろう」
「冷たいね君は」
ばしゃっ
水たまりを元気よく踏んだせいで俺にも雨水がかかる。
俺が文句を言う前に優雅先に口を開く。
「ここだよ」
視線を向けると、目の前には見上げてもてっぺんが見えないほど高い高級そうなマンションがあった。
隣で真白はうわあと小さく感嘆の声を漏らす。
俺も同じだ。
ゆうはそんな俺たちを気にも留めず平然と中に入っていく。
この世界に人は少ない。
俺はいままでゆうと真白以外に人に出会っていない。
だから、警備員に止められたりすることもないし、たぶん他の住人もいない。
だから……大丈夫だ。
めったに立ち入らない場所に緊張しながら、俺はゆうの後を追った。
「ここは全部で、32階まであるんだけど、どの階にもひとはいないから安心してね」
ゆうはエレベーターのボタンを押す。
チン、という音とともに静かに扉が開く。
ゆうは慣れたようにエレベーターのなかに入っていく。
俺と真白もそれに続く。
ゆうは扉を閉めると、32階のボタンを押す。
少しの浮遊感がした後、すっと上昇していく感覚がした。
やはりいいところのエレベーターは違う。
「ここは多分あの子もまだ把握してないだろうし、ばれたとしても何階悟られないように最上階を拠点にしたほうがいいと思うんだけど、どう?」
俺は問題ないとうなずく。真白もそれに続く。
「お姉さんは、頑張ってここのこと忘れないように覚えてみてよ」
「が、がんばる」
あまり期待はしてないけどな。
もはや真白の記憶がリセットされるのは、そういうものだと思うしかない。
根性論でどうにか出来たらいいが、そういうものではないだろう。
二人の会話を聞きながら、俺は質問する。
「ちなみにお前はいつもどこにいるんだ目が覚めた時」
「最上階の部屋だよ。君んとこよりはるかに広い部屋だよ」
少しからかうようにこちらを見るゆうに俺は小さく舌打ちをする。
チン、と音が鳴ってエレベーターが止まる。
止まるときもスムーズで、少し感動した。
だがあまり顔に出すとゆうにからかわれるのは目に見えていたので必死に平静を装う。
真白は、すごーいと興奮したように目を輝かせている。
素直でわかりやすい。
エレベーターから出たらまず、重厚感あふれる扉が目の前に現れる。
ドアノブの装飾がまず細かい。
金色の扉が、照明の光に反射してまぶしい。
扉を開けると、まず目に映ったのは、壁一面の透明なガラスだった。
街の夜景がありありと見える。
見えすぎて引いてしまうくらいだ。
「あ、外からは見えないようになってるから大丈夫だよ」
ゆうがそうフォローするが、あまり耳に入らなかった。
広すぎる。
大きな液晶テレビに、ふかふかなソファ、おしゃれそうな観葉植物。
壁によくわからない絵も飾ってある。
真白はその絵を見て、かわいいと一人呟いている。
絵画を見ての感想ではない気もしたが、絵のことはよくわからないので特に何も言わない。
「じゃ、明日からひとまずここが拠点ってことでいい?」
あらためてゆうが俺たちを見る。
この場に反対する奴なんて一人もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます