14年目-1 統括理事、来日

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


御堂将太(17)

上原光江(17)




 極東は日本において。若き日の御堂将太が覚醒し、探査者としての活動を開始した。


 後に精力的な活動で海外にまで足を伸ばし、日本人探査者としては異例の海外知名度を誇ることになる彼だがこの時点では当然ながら無名の新人。

 探査者にとって己を象徴するとさえ言えるファースト・スキルが、まさかの封印されていて使用できないという重いハンデを背負いつつ……それでも持ち前の才覚と情熱と頭脳で、60年にも及ぶ現役生活の基礎を構築しようと歩き始めていた。

 

 しかし、そんな彼に対して極めて早期に目をつけていた存在がいた。いや、厳密には彼の持つ《究極結界封印術》に対してである。

 その者は将太の情報を掴むや否や、即座にスイスから遠く離れた日本の地を訪れた。立場や役職を隠し、完全にお忍びの旅である。

 

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワ。そしてその裏の人格ヴァール。

 己が使命、責任。そして交わした盟約を果たすための初来日であった。

 

 

 

 すっかり慣れてきたダンジョン探査も終え、いつも通り全探組に行って報酬を受け取った帰り。

 わざわざ施設前まで迎えに来てくれた最愛、光江とともに自宅へと戻っていた時のことだった。将太の名を呼び、話しかけてきた外国人がいたのだ。

 

「はじめまして、御堂将太くん。私は……ええと、そうね。さすらいのスキルマニアとでも言おうかしら。あなたが特殊なスキルを持っていると風の噂で耳にして、ついたしかめたくなって来日したの。少しだけお時間いただけないかしら?」

「いえ、すみませんが忙しいので……あと名乗りもしない不審者についていくわけにもいきませんから」

「うっ……」

 

 知らない人にはついていかない。ましてや名乗りさえしない者など不審者同然。

 極めて当たり前の理論とともに、危害を受けることを警戒して光江を庇うように前に立った少年に女──ソフィアはぐうの音も出ないと冷や汗を一筋垂らした。

 

 気が逸りすぎた。大ダンジョン時代開始から12年が経ちついに訪れた好機に目が眩んだと、瞬間的に己を罵る。

 将太の警戒は当然のものであり、彼のガールフレンドだろう少女を庇う姿勢は見事であり、また己に対する言動は正論の一言でもある。

 話しかけた時点で暗雲どころか豪雨の有り様に、ソフィアは久しく感じていなかった焦燥とともに自らの正体を明かした。

 

「ご、ごめんなさいね。ジョークが過ぎました、私はこういう者です、どうぞ探査者証明書をご覧になって」

「はあ…………ソフィア・チェーホワ!?」


 探査者証明書──この頃にはすでに探査者用の身分証明書として世界的に普及していたそれは、国際機関WSOによる発行であり問答無用の身元証明力を誇る。

 それを受け取り、油断せぬままにちらと目を通した将太だったが次の瞬間、目を見開いて驚きのままに叫ぶしかなかった。

 世界一有名な探査者の名が、そこには記されていたからだ。



 名前 ソフィア・チェーホワ レベル459

 称号 守護者

 スキル

 名称 鎖法

 名称 気配感知

 

 称号 守護者

 効果 パーティメンバーの耐久力に大きく補正



 ソフィア・チェーホワ。近年発足された国連機関、国際探査者連携機構の統括理事であり、先の能力者大戦においては能力者の保護と戦争終結に大きく貢献した最新の大英雄だ。

 同時に自身も極めて強力な探査者としても知られており、大戦終結間際におきた世界規模のスタンピードを仲間とともに抑えきったというエピソードもここ、日本において伝説的に語られている。


 そんな大物中の大物がなぜここに? いやそもそも、なぜ自分などに?

 混乱する将太。背後から光江もソフィアの探査者証明書を見て、驚きに叫んだ。


「ええっ!? ちょ、将太くんこれ本当なの!?」

「あっ、ちょっと待ってくださいお忍びなのです騒がないでくださいお願いします」

「なんだって、WSO統括理事なんて世界的大英雄がこんなとこで、僕なんかを……」

 

 大通りで叫ぶ少女を慌てて制止するソフィア。今現在、彼女はお忍びの身であり変装さえもしていた。

 美しい金のウェーブヘアをポニーテールにし、サングラスを掛け、帽子を被りマスクまでして。そして服装はボーイッシュなシャツとジーンズという出で立ちだ。


 新聞などで掲載されているソフィアの姿とは思えぬ姿。なるほどたしかに変装だなと妙なところに感心しつつも、困惑しきりに証明書を返す将太。

 彼に微笑みかけ、ソフィアはそして続けた。

 

「言ったでしょう? あなたのスキルを確認しに来たって。全探組を通じてWSOにも共有されている全探査者のデータベース、その中でたった一つだけ、あなただけが持つスキルがある」

「…………!! まさか、あのスキルが!? 世界でも、僕だけ!?」

 

 今度こそ警戒心を剥き出しにして、将太は身構えた。

 全探組およびWSOには、一切のスキルを隠し立てせず登録しなければならない義務がある。ゆえに将太もそれに沿って登録したわけだが……まさか統括理事が直々に動くほどのことだとは!

 

 予てより何か、とてつもないモノを秘めているように感じていた件のスキルだがこれは想定外だ。というより世界に一つだけ、自分だけという話からして予想を大きく超えている。

 

 露骨に強くなる警戒と不安。眼の前の少年を不安がらせてしまったことに罪悪感を抱きつつ、ソフィアは優しく微笑み告げるのだった。

 

「そう。あなたの《究極結界封印術》を……探査者証明書を直に見せてもらいたいのと、話をお伺いしたいのよ。もう一度聞くけれどほんの少しだけ、お時間いただけるかしら?」

 

 宥めるような微笑みも、今の将太にとっては得体の知れない政治屋の恐ろしい笑顔にしか見えない。

 一も二もなくうなずく。そんな彼を、光江は心配そうに見つめていた。

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