14年目-2 将太の直感

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


御堂将太(17)

上原光江(17)




 はるかな過去。大ダンジョン時代より以前にソフィア・チェーホワとヴァールが"大いなるモノ"と交わした盟約は、すべてが一つの目的に到達するためのものだった。


 その目的の詳細な経緯については大ダンジョン時代の歴史を語る場でなく、とある救世主の物語にて語られるものではあるのだが……ソフィアとヴァールに限って言うと、多少触れざるを得ない部分はある。

 何故ならば彼女らはこの100年、統括理事として時代を守護する傍らで陰ながら、独自に行動していたからだ。

 

 それは4つの特殊なスキルを持つ者を、とある人物が台頭してきた時代に、その者の元に集わせること。

 いつ、どのタイミングで訪れるか分からない時に備えて世界に網を張り、僅かな情報があればすぐに確認のため現地へ向かう……統括理事として多忙な生活を送る合間にそのようなことを彼女は繰り返してきたのである。

 

 

「まあ、はっきり言いましてそれに託つけて各国を観光しに行っていたところはありますね、うふふ! あ、ヴァールには内緒ですよ?」

 

 

 と、言うのはそうした過去について、いつかのどこかで現れた"とある人物"相手に語ってみせた時のセリフである。

 この発言の真偽がどうあれ、彼女がこのような部分でも表裏問わず精力的に動いていたのは事実だ。

 

 そう。それゆえにソフィアは御堂将太に接触した。

 彼のファースト・スキル《究極結界封印術》こそが、彼女の探し求める4つのスキルのうちの一つだったからだ────

 

 

 

 結論から言えば、ソフィアとの接触はものの30分ほどで終了した。

 彼女は自己申告の通り本当に将太の探査者証明書を確認しに来ただけにすぎず、たとえば希少スキルの持ち主だからと引き抜きだとか、あるいは連れ去りだとか強硬手段をとりに来たのではなかったのだ。

 

「な、なんだったんだろう、あの人……」

「さ、さあ……」

 

 光江と2人、足早に去っていったソフィアの後ろ姿を見据えてつぶやく。

 最寄りのカフェでひとまず落ち着き、流行りのケーキやコーヒーなど奢ってもらいながら多少の話までしたのだが、ソフィア・チェーホワの目的の核心までは当然ながら見通せず終いだった。

 

 結局彼と彼女には甘味をタダで味わえたというのと、迷惑料だとそれなりに分厚い札束を一方的に押し付けられたこと。

 それとソフィアの、WSO統括理事との連絡先が記されたメモ用紙を渡されたという結果だけが残った。

 まさか今のやり取りだけのために、わざわざスイスから日本にやってきたのか? あまりの奇行ぶりに、冷静沈着が売りの将太も困惑するしか反応できないでいる。

 

「いやあ、まさか統括理事なんてすごい人がわざわざこんなところにまで、ねえ……」

「それもそんな、僕のスキル目当てとか……ねえ」

「っていいますか? 《究極結界封印術》なんて初耳なんですけどー?」

「そっちもそっちで、ハハハ。まいったなあ」

 

 光江ともども戸惑うわけだが、かくいう彼女にはこれまで隠し通していたファースト・スキルの存在がバレてしまってじっとりとした目を向けられる。

 できれば誰にも、それこそ将来を誓いあった光江にさえも知られずにいたかったのだけど……と、今はもういないソフィアに恨み言をつぶやく。

 

「勘弁してほしいなあ、統括理事さん……やりたい放題して言っちゃったんだものなあ」

「どーゆーことですかー? しょーうーたーくーん?」

「いやいや、ごめんよ光江〜……」

 

 詰め寄る彼女の両肩を、軽く叩いて落ち着かせる。二人ともそれ相応に真剣なのだが、傍から見れば仲睦まじい彼氏彼女が戯れ合っている様にしか見えず。

 周囲の人々がどこか微笑ましい視線を投げている中、こほんと咳払いをして将太は光江に笑いかけた。

 

「いつものアレ、直感が働いてね。僕の得たスキルについては誰にも、知られないほうが絶対にいいと思ったんだ。今までにないほどの、強い予感だったよ」

「直感って……大丈夫なの将太くん? そんなこと言った時って大体いつも危ないことに引っかかる寸前だったりするじゃない。それも今までにないほどだなんて」

 

 彼の、異常なまでに研ぎ澄まされた直感の精度については幼馴染であり彼女である光江も当然知っている。

 幼い頃から将太が、変な予兆を感じ取った時はいつも不思議なことが起きていた。


 彼に言われていつもと違う道を突然通れば、普段通いの道で大きな事故が起きたり。

 はたまた手を引かれていつもと異なり早めに家に帰れば、彼女の祖父が倒れた直後に出くわして、幸い手当が早めに済んだので大事に至らなかったとか。

 そうした、大変な事態に際してなんらかの虫の知らせを受け取りやすいのが将太であるというのは光江も重々承知のことなのだ。

 

 だからこそ、今までの比ではないなんらかの予感を得ているらしい様子にただならぬ気配を感じて背筋が冷える心地になる。

 明らかに不安げな様子を見せる彼女の内面については、将太も当然把握していた。それゆえ優しく微笑み、安心させる言葉を投げかける。

 

「大丈夫。今までだってこの直感がなんやかや、僕らを助けてきてくれてたろう?」

「でも……」

「統括理事なんて方まで出てきたあたり、このスキルは相当何か深く大きな騒動に関係しているとは思う。でも、きっと悪いものではないという気もしているんだよ。これも直感さ、だからきっと、大丈夫」

 

 気休め半分の言葉だったが、もう半分は真実本気だ。

 謎のファースト・スキル《究極結界封印術》にまつわる真相はおそらく、自分の予想や器をはるかに超える話だろう……だが同時に、善いことでもあるという予感もたしかにしているのだ。

 

 だから大丈夫。きっと大丈夫。

 自分はいつか、統括理事さえ動かしめている真実に辿り着けるはず────そんな希望さえ抱きながらも、将太は光江を軽く、抱き寄せたのだった。

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