13年目 御堂将太

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


御堂将太(16)

上原光江(16)



 大ダンジョン時代における花形、探査者はとかく金持ちになりがちだ。

 ダンジョンを踏破することで得る報酬がそもそも高く、加えてモンスターが極稀に落とす素材は、希少性や有用性から莫大な価格で取引されているのだ。


 何より探査業で得た金銭を元手に、投資や投機などに精を出す探査者もそれなりにおり。

 そうした都合から、他の業種や職種に比べて明らかに金銭的に苦労することのない界隈だと言えよう。

 

 探査者になったことで一代で財を築く者もそれなりに現れたこの100年。

 "成金探査者"などと口さがない者からは揶揄されがちなそうした者の中の一人に、大ダンジョン時代史に名を残す傑物がいた。

 

 御堂将太。

 現代にて新進気鋭の天才若手探査者である、御堂香苗の曽祖父。そして極東日本は古都京都で最新の名門たる、御堂家を興した男だ。

 WSO統括理事ソフィア・チェーホワや特別理事マリアベール・フランソワとも親交が深かった彼もまた、大ダンジョン時代において重要な役割を担っていた。


 表の意味はもちろんのこと、裏の意味においても、である。

 

 

 

「《ステータス》」

 

 

 名前 御堂将太 レベル1

 称号 ノービス

 スキル

 名称 究極結界封印術

 

 スキル

 名称 究極結界封印術

 効果 救世技法/現在封印中

 

 

 覚醒したての己のステータスやスキルを見て、御堂将太はふむふむとうなずいた。時は大ダンジョン時代が始まって12年、能力者大戦を経ての復興期に入ろうとしていた極東、日本でのことだ。

 黒髪を短く切り揃えた、まだまだあどけない面立ちの16歳の少年だ。しかしてその瞳には知性と情熱が共在しており、実際彼はすでに成績優秀にして文武両道を地で行く優等生でもある。

 

 そんな彼がスキルを獲得したという声を聞き、探査者になったのは学校の帰り、夕暮れの田んぼ道でのことだ。

 幼馴染であり交際関係にある上原光江と自転車を押しながら話をしていた時、突然の覚醒であった。

 

「ふーむ……」

「どういうスキルや称号だったの、将太くん? 強いって感じ?」


 それからすぐに二人、将太の家に帰り──御堂家と上原家は当時、隣同士に家があった──居間で家族も含めた一家総出で見守る中、彼のステータス確認が行われていた。

 ステータスは基本、保持者本人にしか見ることはできない。できても同じ探査者で鑑定系のスキルを持つ者だけだが、将太と周りにはそもそも探査者が一人もいなかったので、やはり自己申告でみんなに伝えるしかない。


 最愛の彼女の興味津々な声をよそに、将太は唸る。

 他の探査者がどうか知らないが、何やら奇妙な違和感がある。己の手にしたファースト・スキル《究極結界封印術》の名称と効果の文言に、そこはかとなく特別なものを予感したのだ。

 難しい顔とともに、告げる。


「……んー。まあ、普通って感じかな? 《杖術》だって。なんでも杖を使う武術の習熟速度が高まるってさ」

「武術! そっか将太くん探査者になるなら、モンスターと戦うのに武術家さんにならなくちゃだもんね!」

「将太は運動できるしそこは大丈夫だろうけど、なんで杖なんだ? 剣道とか空手とか、そっちが活かせるようなスキルにはならんかったのか」

「僕に言われても……こればっかりは文字通りの授かりものだよ、爺ちゃん」

 

 齢80を超える祖父の、率直な言葉に苦笑いして返す。

 そもそも《杖術》というのも嘘なのだが、これなら普通に《剣術》などと言っておくべきだったかなと彼は内心で反省した。

 

 …………将太がなぜこの場面、己のファースト・スキルについて本当のところを家族や彼女に打ち明けなかったのか。それは一言で言ってしまえば勘働きによるものだ。

 彼はとにかく勘が良かった。嫌な予感は必ず当たったし、逆に良い予感を覚えたなら必ずそれは良い結果をもたらしてくれる。

 ある種の第六感。まさしく超能力めいた感度と精度を誇る直感を持っていたのだ。

 

 そしてこの時、将太は過去最大級の直感を覚えていた。

 このスキルは不必要に世に晒してはいけない。できる限り隠し通して、そしていつかの時に備えなければならない、と。

 そのいつかの時というのが具体的に何を指すのか、本人でさえも分かりはしないが彼は己の直感と予感に従い、その通りにした。

 内心にて思う。


 

(このスキル、絶対に何かある……僕にとってか、あるいは他の誰かにとってか知らないけど。いつか誰かを救うため、このスキルに頼る時が必ず来る。そんな気がする、そんな予感がする!)

 


 一種の強迫観念めいた確信。

 文言から察するに封印されている、謎の"救世技法"であるこのスキルは、間違いなく御堂将太という自分自身の生涯をかけて守り抜かなければならないものだ。

 なんの根拠もない感覚を、将太はしかしなんの疑いもなく受け入れた。これまでもそうだったように、己の直感に殉じてみせたのだ。

 

 結果的に言えばこの直感は見事、的中することになる。

 この時よりはるか未来。彼と光江の末裔の心と尊厳、未来と生命を守るために──

 《究極結界封印術》をはじめとする"決戦スキル"にのみ備わる隠し効果は発動されることとなるのであるが、それは別の誰かの物語にて語られるだろう。

 

 御堂将太の探査者人生は、このようにしてスタートしたのだった。

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