9年目 能力者大戦

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ソフィア・チェーホワ(??)

レベッカ・ウェイン(22)

シェン・カーン(33)

妹尾万三郎(24)




 ──そして、世界大戦は引き起こされた。

 予てより軍事衝突の絶えなかったいくつかの地域や国同士がついに宣戦布告。その周辺国や同盟国をも巻き込んで、連鎖的に世界全土に戦火が広がってしまったのだ。

 

 この大戦の最も大きな特徴に、やはり能力者を戦線に投入した国が多かったということが挙げられるだろう。

 レベルの恩恵により常人の何倍もの身体能力を手にし、かつスキルによって超常現象さえも引き起こせてしまう彼らの存在はまさしく革命的なもの。戦場の様相を大きく変えてしまったのだ。


 そうなれば当然、あらゆる国が目を血走らせて自国の能力者達を軍事利用すべく動き出す。

 悪意にも似た闘争心、征服欲の伝播。国連やソフィア・チェーホワの危惧していた通りの事態、能力者大戦の始まりであった。

 

 

 

 戦争状態に突入する国が、日を追うごとに増えていく。

 ついに訪れてしまった事態に際し、しかしソフィア・チェーホワは毅然とした対応を見せた。

 スイスはジュネーヴ内にある大きな広場にて、集まった能力者同盟メンバー約1000人。そのすべてが能力者達に対して、ソフィアは己の意志と今後の方針を告げる。

 

「やることはたった一つ。あらゆる国から平和を求める能力者達をこの地に呼び寄せ、戦争を求める能力者達は無理矢理にでもこの地に連れてくること。それだけです」

「前者はともかく後者ってのは、つまり力ずくでもってことかい? ソフィアさん」

「その通りよ、レベッカちゃん。人間相手にスキルを使いたがる能力者はただの危険人物。黙らせて捕縛してからここに連れてきます」

 

 同盟幹部格、ノルウェー出身の探査者レベッカ・ウェインの質問に微笑んで答える。

 22歳の若さにして北欧地域最強とまで呼ばれるほどの強さを誇る、縦にも横にも巨大な女性だ。


 粗雑で粗暴な性格の彼女もまた、戦争に能力者が投入される事態には完全に否定的な立場だった。

 あくまで自分達の力はモンスターにのみ使われるべきという、ソフィアとヴァールから薫陶を受けた形である。


 能力者同盟の面々はみな同様にソフィアやヴァールからの影響を受けている。

 "モンスターに対抗するための存在こそが能力者"という、現代においては世界的な社会常識となった定義の基盤はここで醸成された形になるのだ。


 同盟とは距離を置いているものの今回に限り、ソフィアの協力者という形で支援を表明してきた盟友、シェン一族の長シェン・カーンとその隣に立つ男が2人続けて挙手をした。質問である。

 

「それではソフィアさん。我々は各自の地元に戻り、能力者達の中でも戦争を忌避する者をまずはこの地まで送り届けるということですね?」

「ええ、その通りにお願いします」

「そして次に各地の戦場を渡り、スキルを使って戦闘している連中に横槍を入れて殴り倒す、と。なかなか凄絶ですなあ」

「無茶なことをお願いしている自覚はあります。ですがそうでもしなければ、確実にこの戦争は行き着くところまで行ってしまうでしょう……そう思いませんか? 妹尾くん」

「…………ま、正直に言うと同感です」

 

 段取りについての確認を行うカーンともう一人の男。

 戦争反対派の能力者を逃がす行為についてはともかく、戦地に介入して能力者を倒して捕縛する行為についてはいささか難色を示したのが、妹尾万三郎という名前の日本人能力者だ。

 

 彼はモンスターの生態に興味を持ち、その縁からソフィアとも知り合い同盟メンバーとなった。

 24歳とレベッカと大差ない年齢ながら、モンスター研究への情熱が強い彼はそれゆえ、戦争などというものに能力者が消費されている現状に強い危機感を覚えていた。

 それゆえ言葉では難色を示しながらも今、ここでこの通りにやらなければならないとの認識はしっかりと持っていたのである。

 

 そこからもいくつかの質問に答えつつ、段取りを説明していくソフィア。

 今起きている戦争から、どうにかして能力者を取り除く──その目的に向け、みなの士気が高まっていく。

 そうした熱気渦巻く広場内にて、数多の能力者達の協力の下、新たな世界、新たな時代の秩序を構築するべくソフィアは高らかに声を上げた。

 

「我々はダンジョンを、モンスターを相手にするべき能力者。であれば人間同士の殺し合いなど、あまつさえ能力者同士での殺し合いなど言語道断。こんなことは絶対に阻止しなければなりません」

「そうだ! その通りだ!!」

「誰かを守れる力で人殺しなんてゴメンよ!!」

「──であれば! 私達に今できることはたった一つ! 一人でも多くの能力者を保護し、一つでも多くの命を救う!」


 能力者を保護すればそれだけ、人に向けて放たれるスキルや力がなくなる。それだけ多く、生命が助かる。

 能力者の、ステータスの存在意義は別のところにあるのだ。断言するソフィア・チェーホワに誰もが賛同の声を上げる。


 すべては命を救うため。

 これもまた新世界、新時代における能力者達の理想にして当然の在り方なのだ……その真なる意味を理解する者が、ソフィアとヴァールしかいなかったとしても。


「これからの世界に、これからの時代に人間同士の争いは無用!! 私達の倒すべきモノは……ダンジョンの中に潜むモノ達! すなわちモンスターなのです!!」

 

 ────そして救うべきモノの一つにも、また。

 言うべきでない真実をも内心にてつぶやいて。ソフィアは昂るメンバー達へ、直ちに行動に移るよう命じるのであった。

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