1年目-2 ダンジョンとモンスター

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢


ソフィア・チェーホワ(??)

ヴァール(???)



 突然極一部の人間に与えられたスキルと称号、そしてレベルと言ったステータスの数々。

 それらは同時に、世界規模で大量発生した謎の穴、ダンジョンとそこに蠢くモンスターの存在もあり……瞬く間に世界的な混乱の種となっていった。

 

 発生間もなくからすぐに、ダンジョンに入ることができるのはステータスを持つ者、能力者だけであることが判明している。

 非能力者がダンジョンに入ろうとしても、透明の壁のようなものがドーム状に入口の穴を覆いかぶさって塞ぎ、進入を阻むのだ。


 余談ながら現代などでは、この不思議な性質を利用し、壁の上に立ってさながら空中浮遊しているかのような映像を撮ってネット上に配信する者までいる。

 そのような間接的利用法はさておくにしても、ダンジョン自体が場所を問わずどこでも地面であるならば発生する性質もあり、基本的にはひたすら迷惑な代物であることはいかなる時代にあっても不変の真実と言えた。

 

 そして。そうしたダンジョンの内部はと言うと────

 

 

 

 ダンジョンの中は土塊の壁と床、そして天井が続くだけの薄暗い空間が広がっていた。突入したヴァールが、手にしたランプを掲げてつぶやく。

 

「うむ、少し暗いな……進入の際には多少、光源を用意するのが良いかもしれん。道も狭く長い、人によっては長時間の活動を忌避する者とているかもな。そうした者にも活動できる仕組みは考えておかねばなるまい」

 

 スキル《鎖法》を発動しつつ、住まいの窓からダイナミックな進入を果たした彼女だがそこから先はマイペースに冷静沈着だ。

 いずれステータスを手にした者達を牽引する時のため、今日に訪れた新時代を運営する方策を考えつつの探査だ。

 

 ヴァール、そしてソフィアもだが、ある使命と盟約のためにすでに動き始めていた。

 世界全土を巻き込んだ国際組織を形成し、ダンジョンとモンスター、ステータスが犇めく新たなる時代の秩序を創り護るという目的。それも結局は交わした約束、そして抱えし大願を成就させるための手段でしかない。

 

 一見すれば無謀な、壮大過ぎる野望にも思えるその目的を、しかしソフィアもヴァールも当たり前にこなすべきタスクとしてみなしていた。

 実際この時より10年後、彼女を統括理事とした国連組織が発足され、まさしく時代を牽引し守護する不老の永遠存在としてソフィア・チェーホワの名が末永く記録され続けることとなるのだが、それは今後紐解かれる100年史の中で語られていくことだろう。

 

 土塊の道を進む。一本道だ……しばらく歩けば部屋のようなものが見えてくる。そしてそこにいる、ナニモノカの気配も。

 まったく動じることなく、ヴァールは進む先にいる者を見定めつつ歩く。

 

「…………道と部屋、そして階層構造が基本。内部素材は土塊がベースだが時折、発生した周囲の情報を読み取ることもある、か。そして部屋内にはモンスターが徘徊する。うむ、話通りだな」

 

 ダンジョン内部の基本情報を、それまでに得ていた事前知識やすでに内部に入っているらしい能力者達の証言を纏めたマスメディアの発信と照らし合わせてうなずく。

 特に問題はない。規模も小規模なものだと一階止まりだが、より大規模になると100階層近くにまでなり得るものもあるはずだ。あるいはそれ以上の規模までも。

 

 そしてその最奥にはダンジョンを発生させている原因、ダンジョンコアと呼ばれるクリスタルが設置されている。

 それを回収して外へ出れば、ダンジョンが消滅する、と。これが今後、能力者達にのみ許されたダンジョンへの進入と踏破に至るまでの一連のプロセスなのだ。

 

「ダンジョンコアはワタシ達が創る組織に収集し、そこから《system:アセンション》で処理することとなるが……ふむ。収集に際して報酬はつけるべきだな、無償では誰も動くまい。下手に個人間で売買などされだしては収拾がつかなくなるのだ、そこは国際的な枠組みの中できっちりと法規制を行わなければな、と?」

「──ぴぎぎぎああああああっ!!」

「出たなモンスター」

 

 ヴァールの構想としては能力者達には各地のダンジョンへと潜りコアを回収、それを彼女率いる国際組織の下へと集めたいわけなのだが……そのためにはいろいろとクリアしなければならないハードルがある。

 本当に先の長い話になりそうだと思っていると、部屋内に辿り着いた途端甲高い叫びとともに異形が襲ってきた。


 粘膜塊、巨大なゲル状の化物。モンスターの一種、後にスライムと呼ばれる種族だ。

 タイミング的には奇襲と言っていいはずだったがヴァールに動揺はない。彼女の持つスキル《気配感知》がすでにその存在、動きを把握していたがゆえに。

 スムーズにソレを見、己の腕を振るう。

 

「《鎖法》、鉄鎖乱舞」

「ぴぎゃっ──」

 

 ダンジョン突入直前に発動していた《鎖法》。正真正銘世界でヴァールにのみ与えられた唯一のスキルによって顕現した鎖を右腕から放射状に無数に放ち、スライムは即座に直撃を受けて消え去った。

 光の粒子となったのだ……モンスターには血や内臓はなく、生命活動を停止した時点で粒子化して影も形も残さず消える。これもまた、聞いていた通りだ。


 今しがたのモンスターを仕留め、一旦スキルの発動を治めてからまた、つぶやく。

 

「モンスターもダンジョンごとに強さがピンキリと聞く。ならば能力者が己の身の丈にあったダンジョンに潜れるような仕組み作りは必須だな。分類……能力者もダンジョンもだが、級ででも分けてみるか? とはいえこれについては、まず社会基盤を整えてからの話になるだろうからそれなりに時間をかけなければならないが」

 

 無表情のまま、ひたすらに今後の世界をどう牽引すべきか案を練り続ける。その間も歩みは止まらず、道を進み部屋に出てはモンスターを倒す工程の連続。

 ヴァール──ソフィア・チェーホワの裏人格の戦いはすなわち、ダンジョン相手のみならず。

 ある意味では世界、時代すべてを相手にしての壮大なものであるのだった。

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