大ダンジョン時代ヒストリア

てんたくろー/天鐸龍

1年目-1 始動!大ダンジョン時代

本エピソードの主要な登場人物

()内は年齢

ソフィア・チェーホワ(??)

ヴァール(???)




『あなたはスキルを獲得しました』

『それに伴いダンジョンへの入場および攻略が可能になりました』

『system《ステータス》機能の解放を承認。以後、あなたは自分のステータスを確認できます』



 人類に変化が訪れたのは、本当になんの前触れもない唐突なタイミングでのことだった。

 いきなり脳内に謎の女の声が響いたのだ──そして以下のごとく、超能力とそれを確認するすべを獲得したのである。

 


 名前 ヴァール レベル300

 称号 守護者

 スキル

 名称 system:アセンション

 名称 アルファオメガ・アーマゲドン

 名称 鎖法

 名称 空間転移

 名称 気配感知

 

 称号 守護者

 効果 パーティメンバーの耐久力に大きく補正

 

 スキル

 名称 system:アセンション

 効果 ダンジョンコアを■■■■■■へと■■する


 名称 アルファオメガ・アーマゲドン

 効果 救世技法/現在封印中

 

 名称 鎖法

 効果 スキルによる鎖を発現。それを使用する技術の習熟度に補正

 

 名称 空間転移

 効果 異なる二地点を繋ぐ門を設置する

 

 名称 気配感知

 効果 周囲のモンスターの気配を察知する



 上記は一例であるが、こうした表示、すなわちステータスを確認することができるようになったのだ。


 世界各地で少なくない人数が聞いたその声は当時、神の声とも、あるいは何者かによるテロリズムとも、はたまた大国の新技術によるものとも、果ては宇宙からやってきた侵略者の魔の手とも言われたが。

 結局真偽は100年が経った現在でも分かっていないのが実際のところだ。分かっているのはその声を聞いた者がスキル、称号、レベルといったスーパーパワーを手にした通称"能力者"となったことであり……

 

 それと時を同じくして世界各地に発生した、ダンジョンと呼ばれる洞穴に潜入することができる力を持ち。

 同時にその内部にいる得体の知れない化物、モンスターを倒すことできる力を持っているということだけであった。

 

 

 

「…………始まったのね」

 

 とある都市部。町中に突如現れた大穴、ダンジョンの入口を宿の窓から見下ろして女はつぶやいた。

 美しい金髪をウェーブがかって波打たせた、整った顔立ちは老若男女問わず魅了させるだろう美女だ。歳の頃、およそ18といったところだろうか。

 

 今年に入り各地に発生したダンジョンが今、すぐ眼下にある。それは間違いなく事態が動き出した証だ。

 大ダンジョン時代。歪められた世界の果て、風さえ止まってしまった荒野の時代。

 もう後にも先にも引けなくなった袋小路の時が今、この年をもって到来したのだ。

 

 そしてそれを、女は……ソフィア・チェーホワは心から待ち望んでいた。

 一人、物憂げにつぶやく。

 

「ロスタイムはこれにて終わり。ここからは正真正銘、決死の時代。何も知らぬ現世さえ巻き込んで、たとえ億年の時さえ越えようともなお、倒すべきモノを倒し切るためありとあらゆる命がすべてを懸けて戦う時代……」

 

 私達が、もたらしてしまった時代。

 後悔を滲ませてのその言葉を、真に理解できる存在は今この時、この世には一人として存在しないだろう。彼女のこれまでを、誰も何も知る由もないように。

 

 そして彼女は瞳を閉じた。静かに、瞑想するかのごとく。

 瞬間、その表情の質が劇的に変化する。感情の色がすっかりと消え失せ、無表情な、なんの情動も感じさせない人形めいたものに変わったのだ。

 

 まるで別人になったかのような。否、まさしく別人になったのだ。

 彼女の身体は無論一つきりだが、そこに宿る魂は一つではない。二重人格とも言うべき状態……この時点から遡ること50年前にはすでに、ソフィアは陥っていた。


 切り替わる人格。

 コインの裏が今、目を覚ます。

 

「盟約を果たす時が来た」

 

 短くつぶやく、その顔は恐ろしいほどに何もない。虚無のごとく空っぽの表情が、整った見た目もあって凄絶な美を演出していた。

 誰もが目を疑うだろう。同じ顔だが、たしかに別人だ。まさしく人格が切り替わったのである。

 

 ヴァール。

 そう、元いた場所では呼ばれているモノはそして、冷たくダンジョンを見下ろした。

 待ち望んでいた瞬間だった。大いなるモノとの間に交わした盟約を、この命、この魂のすべてをもって果たす時がついに来たのだ。

 

「アレから50年……ここが新たな始まりであり終わりだ。行き詰まったこの世界を切り拓くためには、詰んだこの時代をも利用するほかない」

 

 握り拳。怒りと哀しみと、憎悪と罪悪感。期待と不安さえある。

 無表情だからといって無感情なわけでもない。ヴァールは"あの日"から煮え滾り続けていた内心を、ついに発露するかのように強く、血が滲むほどにまで強く拳を握った。

 

 かつてソフィアとヴァールがなんだったのか。何者で、何があった末にこのように成り果てているのか。それはいつかのどこか、誰かの物語において語られるだろう。

 ここではただ、断固とした不撓不屈の決意をもって永き戦いに挑む彼女が見据える、これから先の展望だけが語られていくのみだ。


「《鎖法》発動……! ここからだ、ワタシの、ワタシ達の本当の戦いは! ソフィア、どうか力を貸してくれ!!」


 スキルを発動し、右手に鎖を顕現させる。

 《鎖法》。この世界において後にも先にも他には存在しない、彼女だけの一点もののスキルだ。

 盟約を交わした際に授かったこの力を叶う限りに振るい、彼女は全身全霊で挑むのみなのだ。


 勢いよく窓に手をかけ、身を乗り出す。目掛けるは眼下のダンジョン出入口!

 警察が取り囲んでどうにか内部を探ろうとしているが不可能だ。あれはスキルを、ステータスを持つ者以外は誰であれ拒む仕様になっている。

 であれば、これは己の初陣にほかならない!!

 

「行くぞ、邪悪なる思念……! これが開戦の狼煙だ!!」

 

 叫び、思い切って飛び降りる。ダンジョンの出入口に向けて、ヴァールは始まりの一歩を踏み出した。

 ここから100年にも亘る、大ダンジョン時代の火蓋が切って落とされたのだ!







あとがき

ちょっと変わった現代ファンタジーですが完結まで駆け抜けます

☆とか♡とかは作者の餌でございますので、よろしければお願いしますー

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