第57話
同時に、俺の胸元に手を伸ばしていたセラフの手首を掴んだ。
体を動かした時、まだ少し痛みがあった。
まだ完全には治っていないようだ。だからといって、それを表に出したら彼女らにお世話をされてしまうだろう。
「……え?」
驚いたようなセラフの声が漏れる。ルミナスと霧崎も同じような表情をしている。
俺は笑顔を浮かべ、彼女らへと視線を返した。
「ここは……病院だよな?」
俺が問いかけた瞬間、セラフの目元にじわっと涙が浮かび、俺の体へと抱きついてきた。
「……うぐっ!?」
彼女の柔らかな感触の後、痛みが体を襲う。
抱きついてきたのはセラフだけではない。ルミナスもだ。霧崎は、抱きつく場所がなかったからか、俺の手を握りしめてくる。
少し不服そうにしている視線の意味は、分からない。
「滝川さんっ……! よかったです!」
「生きてるのよね!? あたしのせいで、こんなことになっちゃってごめんなさい!」
「……お願いしたせいで、ごめん。私のせいで、こんなことになって……ごめん」
いきなりの謝罪を連呼してくる彼女らに怯えつつ、俺は苦笑を返す。
「いや、別に三人とも別に悪くないから」
……滅茶苦茶責任を感じていそうな雰囲気の彼女らに、俺は慌てて訂正していく。
彼女らは、それぞれ自分の責任だと思い込んでしまっているようだった。
急いでそれを訂正しないと、何やらただでさえクソでか感情が、重くなっていきそうだからだ。
しかし、俺は我慢の限界が来て、顔を歪める。
「ちょ、ちょっと一回離れてくれ……っ。まだ体が痛むんだ」
「も、申し訳ありません……っ」
「そ、そうよね……。大丈夫、これからのこと、全部あたしが面倒見るから」
「私も。……何か、困ったことがあったら言って。手足になって、あなたの生活を支えるから」
「い、いや。そこまでしなくていいから!」
明らかに異常な様子の彼女たちを治めるために声をあげるが、彼女らのどこか曇った笑顔は消えない。
……あれ、もしかしてルート選び間違った?
ゲーム本編でも見たことのない、複数キャラ同時のヤンデレルートって、マジ……?
ひとまず、動ける程度に回復した俺は、あまり病院に長居するのも嫌だったのですぐに退院した。
マルタさんの車に乗り、宿へと向かっていく帰り道。
街を眺めていた。
俺が戦った静穂市は……ゲーム本編ほどの被害はないが、それなりにはダメージを受けている。
全ての未来を変えることはできなかったようだが、霧崎の家族は全員無事なようだ。
……今回、ゲーム本編に随分と干渉してしまったよな。
……今後は、控えよう。仮に、ゲーム本編に出てくるキャラクターと関わるのはもちろんナシだ。
「滝川、口開けて」
「いや、だから……自分で食べられるから」
「ダメですよ。腕に負荷がかかりますから」
そう言って、マルタさんが持ってきてくれたおにぎりを俺の口元へと運んでくるルミナス。
俺が一口いただくと、今度はストローのささったペットボトルをこちらへ差し出してくるセラフ。
……俺は二人に全てを管理されてしまっている。
だって、断ろうとすると、悲しそうに目を伏せるんだもん!
「あたしのせいでこんなことになったのに、ごめんね……」とか「私にお世話されたらまた大変なことになるかもしれませんもんね……」とか「ごめん。私のお世話、下手……?」という感じで完全に元気をなくしてしまっている。
もう別に日常生活を送ることくらいは問題ないのだが、完治するまでは彼女らの心を満たすという意味でも、この立場を受け入れた方がいいだろう。
いやまあ、大好きなキャラクターたちにそんな風に接してもらえることに、悪い気はしないんだけど。
「宿に戻ったら、まずはシャワー?」
「……そうだな」
「洗ってあげる必要がありますね」
「いや――」
「任せなさい。あたし、これでも弟とかをお風呂に入れたことあるし」
「私も、得意な方」
「私も、精一杯頑張りますね」
「……」
……マジで?
夢のような状況ではあるが……三人同時にヤンデレルートはまずい。
ゲーム本編、どうすんだよ! 主人公の契約する予定の天使と悪魔がいなくなるし、修行をつけてくれる霧崎だってどこかに行っちまったよ!
まだ俺は……ゲーム本編から距離を置き、モブとしてこの世界を楽しむ計画は立てているんだ。
だから、ここで手を出すようなことはもちろんしないが……三人と一緒にお風呂とか入ったら……もうさすがに、俺も我慢できない可能性があるぞ?
そんな姿を想像し、これからどうしようかと一人悩みながらも、走り出した車から静穂市を見る。
……静穂市は、多少の崩壊をしながらも……無事だ。
そりゃあ、すべての人を救うことはできなかったと思うが……それでも、被害はかなり抑えることことができただろう。
ゲーム本編を楽しむ、という考えでの行動としては間違いだっただろう。
……でも、まあ、いいか。
そりゃあ、ゲーム本編とは違う展開になってしまうかもしれないが……それでもやはり、悲しい物語よりは楽しい物語の方がいいし、な。
「滝川、お菓子食べる?」
「……食べる」
「また喉渇いていませんか? 口移しのほうがいいですかね?」
「いや、自分で飲むから」
「……訓練、必要?」
「まだ、動けん」
……ひとまず、この三人とこれからどうやって関わっていくか。
真剣に、考える必要はあるよな……。
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エロゲー世界のただのモブに転生した俺に、ヒロインたちが押し寄せてきます 木嶋隆太 @nakajinn
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