第48話


 息が詰まる。まだ、戦いの音が響いている方へバイクを走らせる。

 そちらには……契魂者たちが戦っていた。

 虚影を相手に、傷を負いながらどうにかくらいついている様子だ。


「シャァ!」


 まさに今、一人の契魂者へと突っ込んでいった虚影に、俺は雷を落とした。


「な、なんだ!?」


 その一体から雷を感電させるようにして、周囲の虚影たちを一掃する。


「な、なんという威力だ……」

「き、君は……?」


 驚いた様子の契魂者たちに、俺は声を張り上げる。


「セラフ&ルミナスユニオンの、契魂者だ。ここから、すぐに撤退しろ。ここで戦っても時間の無駄だ!」

「は、はい……!」


 ……彼らも、恐らくは市民を避難させるために戦っていたのだろう。

 すぐに俺はバイクを走らせ、静穂ダンジョンへと向かう。

 静穂市ダンジョンの門付近は、さらに酷い状況だ。

 今も門は開いたままで、そこから虚影と虚獣が姿を見せている。


 ……やるしか、ないな。

 奴らが自由に動いたら、それこそどうしようもない。

 奴らを潰し、ダンジョンへと入って……門を開けているボスを仕留める。


 俺は魔法を準備し、拳を握りしめたところで走り出した。


「はぁぁぁッ!!」


 魔法を放ち、空へと向かおうとした虚影たちを撃ち落とす。


「なんだ!?」

「人間か! 潰せ!」


 言葉を話せる虚獣が声を荒げ、その一声によって虚影たちがこちらへと向かってくる。

 一番素早く動いた虚獣の一体が、嬉々とした様子で爪を振り抜いてくる。


「死ねェ!」


 その攻撃を見切り、拳を振り抜く。

 虚獣の顔面に見事命中したが、それだけでは足りない。

 奴らは簡単には倒れない。

 鋭い牙をむき出しに反撃してきた虚獣を、俺は瞬時に蹴り飛ばす。

 しかし、数秒の間に別の虚影が襲い掛かってきた。


「ぐっ……こいつら!」


 四方から虚影が次々と襲い掛かってくる。鋭い爪が俺の腕をかすめ、背後からは咆哮が響く。

 虚獣と虚影は連携しているかのように動いていた。


「たかが一人で何ができんだ!」

「さっさとこいつを殺すぞ!」


 奴ら一体一体が単純な力だけでなく、俺を追い詰めてくる。

 個の力では俺が勝っている。だが、数で攻められると、どうしても対応しきれない場面が出てくる。


 ……これが、ゲーム本編で経験できる戦いならば、こちらとしても安定の動きはあるというのに。


 次々と攻撃を受けながら、俺はダメージを最小限に抑えるよう防御を固める。

 拳と蹴りで反撃しながら、相手を倒していく。

 しかし、俺が攻撃するタイミングで特攻覚悟で突っ込んでくる虚影。


 その度に体力は削られ、息が荒くなってくる。

 ……指示を出してる虚獣どもが面倒だ。

 連戦でどんどんと消耗させられていく。

 一対一ならば、確実に負けないのに。

 思い切りタックルをされ、地面を転がる。倒れている暇などなく、即座に立ち上がって横に跳ぶと、先ほど俺がいた場所に虚獣の尻尾が槍のように突き刺さっていた。


「ちっ、まだ動けるか」


 くそが……。

 俺はすかさず虚獣へと迫り、右ストレートを叩き込む。

 奴の頭が砕け、地面に崩れ落ちるのを確認するが、すぐに別の虚獣がその背後から俺に襲い掛かってくる。


 俺はその爪をかわし、蹴りで反撃を行う。

 弾き飛ばしたところで、雷魔法を放つ。それとほぼ同じタイミングで相手の火魔法が飛んでくる。


 地面を蹴り付けるようにして氷魔法を展開し、壁を作り出す。

 火魔法を退けたが、ギリギリだ。反応が少しでも遅れていれば、丸焦げになっていた。


 立て続けに虚影や虚獣を倒すものの、そのたびに新しい敵が門から姿を見せる。

 虚影たちの数が減る気配がない。むしろ、次々と湧き出てくるように見える。俺の体力はどんどん削られ、目の前がぼやけ始める。


「……っ、まだだ……俺は、まだやれる……!」


 自分を鼓舞するように声を上げ、体を動かす。

 息が上がり、手足が重く感じられる。

 目の前の虚影たちの群れに、俺は息を整える暇もない。


 絶望的な状況だ。ボスまで到達するにはまだまだ先だ。

 あとは、もう一歩踏み込めれば……!

 拳を構え、俺は迫り来る虚影たちを迎え撃つ。


 拳を振り下ろし、虚影の頭部を砕く。続けて右足で側頭部に蹴りを入れ、さらに次の虚獣を地面に叩きつける。

 しかし、その動きは明らかに鈍ってきている。

 体力が尽きかけている。

 蹴りを放ったあとの体を支えきれず、よろめいたところで虚影の攻撃を受ける。

 腕を交差させて防いだが、防いだ場所がじんわりと痛む。


 俺はさらに魔力を拳に込めて次の虚獣に突進する。しかし、その瞬間――。


「ぐっ……!」


 背後から鋭い爪が俺の背中を引き裂いた。血が吹き出し、全身に激痛が走る。



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