第45話



 明け方。

 まだ薄暗い静穂ダンジョンの入り口を照らす街灯の下。

 街にいた数少ない契魂者の一人である風間は、夜間。

 友人と共に静穂ダンジョンに潜り、ちょうど先ほど狩りを終えたところだった。


「今日も結構狩れたな」

「だなぁー。そういえば、霧崎が静穂市に戻ってきてたのは知ってるか?」

「え? まじで!? 霧崎さん……小学校のときから頭一つ抜けてたよなぁ」

「昔から可愛かったから、めちゃくちゃ美人になってるんだろうなぁ……」

「ああ、めっちゃ綺麗だったぞ?」

「おまっ! なんだよ、見たのかよ! そん時俺も呼べよ!」


 そんな軽い調子で話していた時、一人がぽつりと言葉を漏らした。


「霧崎……同い年なのに凄いよな」

「……だな。オレたちとは明らかにレベルが違うよな」

「でも……負けてられねぇな」

「ああ、そうだな。今からもう一回ダンジョン戻るか?」

「……さすがに、学校あるし、無理だわ」

「……だよなぁ。オレたちも魂翼学園に入学できたらなぁ」


 がくり、と三人は肩を落としていた。

 静穂ダンジョンを背後に歩き出した、まさにその時だった。

 風間がびくりと悪寒を感じ、振り返る。


「おい、どうした風間?」

「……なんだ、この感じは?」

「……え? 何がだ?」

「お化けでもいたのか?」


 三人の中で唯一それの経験があった風間は、その違和感にいち早く気づいていた。

 冗談を言っている二人に声をかける余裕もなく、風間はほぼ反射的にスマホの緊急連絡先へと電話をかける。


「……虚影、侵食だ」

「は? なに言って――」


 その瞬間、門が突然、音を立てて開いた。

 それと同時だった。黒い霧のようなものが、門から溢れ出てきた。

 それはまるで、地獄の亡霊たちが解放されたかのようだった。


「虚影……? いや、こんなに大量に……」

「ま、まさか本当に虚影侵食なんて……!」


 次々と現れる虚影たちは、まるで暴れ出すように四方八方へと広がり、街へ向かっていく。

 風間はすぐに繋がった市の静穂ダンジョン対策課へと荒らげるように声を放つ。


「静穂ダンジョンで、虚影侵食発生! 今、虚影が街に溢れ出してます!」


 そう叫んだ風間の隣。

 怯えるように空を見ていた風間の友人が……吹き飛んだ。


「え……?」

「……久しぶりに外に出られてなぁ」


 そう声をあげたのは……一体の虚獣。

 静穂ダンジョンに封印されていた虚影たちは、場合によっては虚獣へと進化することがある。

 ただ、それらは霧崎などの実力者が派遣され、速やかに討伐されるものだ。


 だが、一部の賢い虚影たちは……自分の進化のタイミングを遅らせる。

 外に出られるチャンスを伺い、そのタイミングで進化を行う。それらの虚獣たちが複数体出現し、ダンジョンの外へと出ようとしたとき……虚影侵食は発生する。


 虚獣は、虚影を従えるかのように悠然と歩き出す。

 風間たちはすぐにそれぞれの持っている武器を手に取り、虚獣へと突っ込む。


 静穂市を守る契魂者として。


 しかし、その決意の一撃が虚獣に届くことはなかった――。




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