第44話


 ……ルミナスは、ただ純粋にセラフに勝ちたいと思っている。

 それが、戦闘でも、ユニオンでの立ち位置でも、もしかしたら日常生活の些細なところでも。


 ……もしも、俺への好感度がゲーム同様だとすれば、もしかしたら俺にセラフよりも好かれたい、と思っているのかもしれない。

 さすがに、そんな指摘をするのはさすがに痛い男では? という考えもあるので、濁しながら指摘する。


「だからって、俺に抱き枕で競う必要はないだろ」

「……それだけじゃ、ないし」


 そう言ってから、ルミナスが静かにこちらに向き直ってきた。

 月明かりが微かに差し込む部屋の中で、彼女の目はいつもより少しだけ寂しそうに見えた。


「このままだと、滝川が……セラフに取られちゃう気がするんだもん」


 小さな声で呟かれたその言葉に、俺は一瞬だけ動揺した。だけど、ルミナスの表情はどこか真剣で、普段の勝ち気な彼女とは少し違う。

 か、可愛い……。素直なルミナスの姿に胸を撃ち抜かれつつ、冷静に言葉を返す。


「……俺が取られるって、別にそんなことないと思うが」

「……別に。なんとなくよ。それで、どっちの方が良かったのよっ?」


 少し声を大きくして顔を覗き込んでくる。

 どっちが良かったって……添い寝を俺が求めているかのように感想を求めないでほしい。

 適当な言葉を返しては、ルミナスは納得しなそうなので、とりあえず、二人ともにそれぞれ違う魅力があるということを伝えておこうか。


「ルミナスとセラフ。俺はどっちもそれぞれ別の魅力があると思ってるぞ?」

「……へ? ……どういうことよ?」

「そのままだ。ルミナスにはルミナスの良いところがあって、セラフにはセラフの良いところがある。……それは比べられるものじゃないんだよ」

「適当なこと、言ってるんじゃないわよ。あたしの魅力って、何よ」

「まず、可愛い」

「……っ! そ、それは、セラフもでしょ!?」

「セラフは可愛さというよりは綺麗って感じだろ? そりゃ、ルミナスもすっとしているときは綺麗、美人みたいに見えるけど、二人の基本はここが違うんだよ」

「……な、なるほど。か、可愛いって……あたし、可愛いの?」

「ああ、可愛いぞ」

「っづ!」


 ルミナスが顔を真っ赤にして、悲鳴のような声を上げる。

 ……まあ、素直に褒められるのには慣れていないだろうからな。


「そういうわけで、二人はそれぞれ違うわけで……比べるものじゃない。少なくとも、俺にとってはな」


 俺はどちらも同じくらい好きだ。その日の気分で、どのキャラのえっちシーンを見るか変えるくらいには、みんな好きだ。

 暗い中でも分かるほどに真っ赤な顔をしていたルミナスは、それから俺の体をぎゅっと抱きしめてきた。


「……み、見るんじゃないわよ、あたしの顔」

「……」


 ぎゅっと彼女の柔らかな体が押し付けられる。

 昨日と今日で俺はいい思いをしすぎているよな。

 近いうちに死ぬんじゃないだろうか?

 そんなことを考えながら、俺はしばらくルミナスに抱きしめられたあと、ゆっくりと眠りに落ちていった。



 次の日。俺が起きたとき、ルミナスはすでに自分の布団に戻っていた。

 なので、俺はいつも通り霧崎とともに訓練を行った。

 宿に戻り、朝食を頂いた後、俺はダンジョンへと行き、霧崎は第一天魔都市へと戻っていった。

 ミカエルユニオンの遠征が急に入ったそうで、しばらくはこちらに戻ってくることもないようだ。

 そんなこんなで俺にとっては平和な時間となった。


 ……まあでも、霧崎のバトルジャンキーさはともかく、美少女が俺に構ってくれていたのは嬉しい部分もあったようで、少しばかり寂しい気持ちはあった。

 それから一週間、俺は毎日のように静穂ダンジョンに潜り続けていた。


 グローブに魔力を込めての攻撃、ブーツでの蹴り技、さらには魔法との組み合わせ……。

 ゲームではボタン一つでできたコンボが、今はほぼ無駄なく再現できる。

 ゲームとリアルとの違いも活かせるようになっていて、自分でもわかるほど戦闘スタイルが洗練されていったと思う。


 この一週間。

 がっつりレベル上げもしたので、そこらの同時期の契魂者よりも確実に強くなっただろう。

 ……ふっふっふっ。

 ゲーム知識を活かして強くなっていけるのが、めちゃくちゃ楽しい。

 今日も無事宿へと戻った俺は眠りについた。


 明日も、いつも通りレベル上げをしよう。

 そんな計画を立てながら眠りについた。

 明日も、いつも通りの朝を迎えるはずだった――その時までは。



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