第42話
「キミがもしかして、滝川悠真くんかい?」
「……ええ、そうですけど」
霧崎の父がそんな風に聞いてくる。
別に、名前を問われるような有名人になったつもりはないので、少し疑問を抱きながら問いかける。
「……美月がね。キミのことをよく話していてね。そんなこと、珍しいものだから……一目見ておきたくてね」
笑顔ではあるがどこかその視線には探るような、威圧するようなものが込められている。
……これは、恐らく誤解されているんじゃないだろうか?
『お前が娘にとってふさわしいかどうか、見極めてやろう』とばかりの様子の霧崎の父に、俺は丁寧に訂正しておく。
「そうなんですか。霧崎には、戦闘面で色々と教えてもらっています。今後も、ライバルとして切磋琢磨していければと思っています」
うん、ライバルとしてね? なんか俺が誤魔化しているんじゃないだろうなっめ目で見てくるのやめてくれない?
霧崎の父は未だ俺と霧崎の関係を疑っている様子だったが、そこに霧崎の母が嬉しそうに口を開いた。
「美月がここまで他人に興味を持つことは珍しいのよね。宿に泊まるのも、朝一緒にトレーニングしたいからって」
「うん、滝川の動きは無駄がなくて参考になる」
……なるほどな。
彼女が宿に戻る理由としては、それもあるのか。
霧崎が車へと乗り込んでくる。
「もう、いいのか?」
「うん。マルタさん、帰る」
「承知しました。それでは、失礼いたします」
霧崎がそう言って車のドアを閉めた。彼女は窓を少し開けてから、父と母に軽く手を振る。
彼女の両親も同じように手を動かしながら、笑顔を浮かべていた。
「美月、無茶しないようにな」
「滝川さん、美月のことよろしくお願いしますね」
「……はい」
霧崎の両親の純粋な言葉に、俺は少しだけ返事に迷いながら頷いた。
……恐らく、もう俺が霧崎の両親と会うことはないだろう。
五月五日。それまでに俺は静穂市を立ち去っているわけで、その時には……霧崎の家族は――。
やめよう、深く考えることは。俺はあくまでもモブとして、物語に深く干渉するつもりはない。
車がゆっくりと出発すると、霧崎がちらとこちらを見てくる。
「今日のダンジョンでの戦いについて聞きたい」
「……昨日とそう変わらないぞ?」
「何階層まで行った?」
「五階層だな」
「それじゃあ――」
霧崎はどんどんと質問をしてくる。俺の話を聞き、まるで追体験でもしているかのように笑顔を浮かべている。
……ゲーム本編が始まる前の霧崎は、氷姫というよりは人懐こさが強いな。
それだけ、虚影侵食による心の傷が大きかったんだろう。
そんなイベントを作った開発者は酷い奴らだぜ。
宿へと戻ってきた。
芳子さんの夕食を堪能し、皆でしばしの休憩を取ったあと、部屋の布団で横になる。
「滝川さん、今夜も一緒に寝ましょうか?」
セラフが当然のように言い放つと、ルミナスが眉をひそめて抗議した。
「不純異性交遊禁止!」
ルミナスが声を張り上げてセラフを止める。しかし、セラフは視線をこちらへ向けてきて、イタズラっぽく微笑む。
「それでは、滝川さん。不純異性交遊にならないよう、純粋な交遊をとるためにお付き合いしましょうか」
なんと魅力的な提案だろうか。
ぜひとも飛びつきたい申し出に、ルミナスが顔を真っ赤に叫んだ。
「ちょ、ちょっと! 滝川! あんたからも何か言いなさいよ!」
そりゃあもちろん、セラフとそういう関係にはなりたい。
だが、俺はモブとしてどこかで彼女らとの関係には一線を引くつもりだからな。
苦渋の決断が、セラフにはお断りしておかなければならない。
「悪い。……今は、契魂者に集中したくて、な」
めっちゃセラフの胸をもみもみできる関係になりたいが、俺はクールに断るしかない。
「そうですか。それは残念ですね」
セラフは残念そうに視線を下げ、ルミナスはほっとしたように息を吐いている。
……セラフとルミナス。俺の勘違いでなければ、やはりどちらも俺への好感度は非常に高い。
先ほどのルミナスの発言だって、俺にある程度の好意があるときにゲーム本編でも似たような発言があった。
彼女は素直に自分の気持ちを伝えられない。……伝える勇気がない。ルミナスは、セラフに負け続けていて……表向きは自信があるように振る舞っているが、内心では常に自分が受け入れられないと思っているからだ。
だから、周りくどく、相手の本心を引き出してからでないと行動できない。特に、色恋に関してはセラフが告白されてばかりのを見ていたし、女性としての魅力が少ないと考えているからな。
ルミナスには、ルミナスの魅力がたっぷりあるんだけどな。
胸は確かにセラフと比べれば、戦力的に心許ないが、ちっぱいにはちっぱいの魅力がある。その僅かな膨らみにそそられるものがな。
そして何より、彼女は尻が大きく、太ももがむっちりしているのだ。その太ももの間に挟まれたいというプレイヤーが数多くいるのは、開発陣も知っている。俺もその一人だ。
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