第41話

 訓練から戻ってきた俺たちは、食堂へと向かった。

 芳子さんが用意してくれた朝食は、昨夜と同様に温かみのある家庭的な料理が並んでいた。白ご飯、味噌汁、焼き魚……どれもシンプルで優しい味わいだ。


「いただきます」


 俺たちはそれぞれ感謝の言葉を口にし、黙々と食事を進める。昨夜の騒動もどこへやら、朝は静かな時間が流れていた。

 そんな中、霧崎が箸を置いて俺に視線を向ける。


「滝川、今日はどうする? いつでも戦えるけど?」

「……今日もダンジョンに潜ってレベル上げでもしてるかな」

「分かった。私は実家に顔を見せてくる。一人で大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「それならいい。私が戻ったら、また一緒に潜って相手してあげるから」

「お前が相手したいだけだろ」

「そんなことない」


 霧崎がぶんぶんと首を横に振る。それから、セラフとルミナスがこちらを見てきた。


「……一人でダンジョンは大丈夫なのですか?」

「まあな」

「普通、ダンジョンって数人で潜るものよね……?」


 ちらとルミナスが霧崎へと視線を向けるが、彼女は首を傾げた。


「私もよく一人で入るから、よくわかんない」

「……そういえば、霧崎もそうよね。ってことは、滝川ってそのくらい強いの?」

「私、昨日戦って負けた」

「「……え!?」」


 セラフとルミナスが驚いたようにこちらを見てくる。


「負けじゃなくて引き分けだ。殺し合いになったら俺は勝てないぞ」

「そんなことないと思う。本当に殺し合いになったら、滝川ももっと本気でやってくるはず」


 ……そりゃあ、まあそうだけどな。

 本気でやりあったらどうなるかはわからないというのは事実だ。


「滝川さん、もうそんなに強いんですね」

「……まあ、でも無茶はするんじゃないわよ?」

「大丈夫だ。心配しないでくれ」


 俺だって、死にたくはないからな。

 彼女の言葉に頷き、食事を終えてからダンジョンへ向かう準備をしていった。



 マルタさんにダンジョンまで送ってもらった。

 霧崎はそのまま車に乗っている。マルタさんに、実家まで運んでもらうそうだ。

 俺は一人で静穂ダンジョンへと入っていくが、俺の行動は変わらない。

 食事を行い、経験値効率を上げての戦闘だ。


 虚影たちはいつも通り姿を現し、俺に襲いかかってきたが……強敵となりうる存在はいない。

 ずっと戦っていると、分かる。

 ゲームと違ってレベルを上げるだけで強くなる、わけではない。 

 魔力のコントロールは自分で習得するしかない。

 グローブやブーツに魔力を込めることや、敵を的確に追い詰めていく方法など、自分でしっかりと考える必要がある。


 ……うん、楽しいな。


 ゲーム以上に、このリアルはやることが多い。

 ……霧崎が、戦闘大好きな理由もこんな感じなのかもな。

 

 魔力の使い方や回避行動、拳による攻撃のコンボなど……自分の動きを最適化していくことに、とにかく集中していった。



 ダンジョンでの戦闘を終えた俺は、迎えに来てくれたマルタさんの車へと乗り込んでいく。


「霧崎さんを迎えに行きますので、少々お待ちください」

「霧崎、今日は実家で過ごすわけじゃないんですね」

「そのようです。明日の朝には、一度天魔都市に戻る必要があるそうで……その後、また戻ってきてからゆっくり過ごすそうですよ」


 なるほどな。

 マルタが車を運転し、俺たちは霧崎の実家へと向かう。

 静穂市内にある霧崎の家は……ゲーム本編では設定くらいしか用意していなかったな。

 ……虚影侵食によって静穂市が崩壊した時、霧崎の家族は全員亡くなっているからな。


 マルタさんの車に揺られて三十分ほど。田んぼの先にあった住宅街に入り、しばらく車が走ったところで車は止まった。


 家はよくある一軒家だ。……まあ、霧崎の設定としてはそれほど特別なことはない。

 設定として母は至って普通、父が契魂者として活動してはいるが、特別有名ということはない。


 弟と妹がそれぞれ一人ずついるなど、この世界ではごくごく普通の家庭だ。

 しばらくして、霧崎とともに家族が家から出てきた。恐らく、見送りにきたのだろう。

 マルタさんが迎えるように車から降りて後の扉を開ける。


「滝川。ダンジョンどうだった?」

「特別報告するようなことはないと思うが……」

「怪我とかなかったのなら良かった。……この後、戦闘とかは……」

「もう宿に戻るんだろ? ……霧崎は家に泊まらなくていいのか?」


 ……彼女が家族と過ごせる時間はもうそれほど多くはない。

 その事実を伝えるつもりはなかったので、罪悪感で少し心が痛む。


「うん。別に。ミカエル様から仕事を頼まれて天魔都市に戻ることになってるし、あっちの宿の方が天魔都市までは近い」

「……そうだな」


 俺がそう返していると、霧崎の父と母がちらと視線を向けてきた。



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