第40話
俺が目を覚ましたのは、まだ薄暗い朝の時間だった。
外からは鳥の鳴き声がかすかに聞こえてきて、窓からは朝日が差し込んでいる。
……朝のジョギングにでもいくか、と思って体を動かそうとするのだが、そこで違和感があった。
体の周りが妙に重い。
そして、視界には淡く、美しい金色の髪が揺れていた。
……セラフだ。
セラフは俺に抱きつくように、まるで抱き枕を使うかのようにぐっすりと寝ている様子だ。
俺の体にぴったりとくっつき、寝息をたてているセラフ。細い腕が俺の背中に回っていて、脚まで絡んでくるという密着ぶり。
……う、動けん。
俺が昨晩、セラフに布団に潜り込まれたことを思い出しながらも、どうにか身動きを取ろうとしたが……まったく身動きが取れない。
セラフの柔らかい体が俺にピッタリと密着していて、暖かくて……正直、心地いい。くっつかれていることに対して文句はまったくない。
むしろ、ありがとうございます! と叫びたくなるような状況ではある。
「うぅ……」
俺が動こうとすると、それを止めるようにセラフが体を動かしてくる。
セラフの髪がさらさらと肩に触れるたび、ふわりと香りが鼻腔をくすぐる。このまま、セラフの柔らかな体を堪能していたい気持ちはあったのだが、そんなとき、近くのベッドからむくりとルミナスが体を起こした。
……眠たそうに目をこすりながら、恐らくはトイレにでも起きたのだろう。ぼーっとした顔で部屋を出ていったルミナスが、しばらくして戻ってくる。
あくびをしながら、少し目が覚めたのだろう。部屋内を見回すようにして、そこで俺と目が合った。
彼女の視線は、それからセラフと俺との間をいきかい、頰が引き攣る。
「……ちょ、ちょっと、滝川……? あ、あんたなんでセラフと一緒に寝てるのよ」
「……何か、気づいたらこうなっててな。助けてくれ」
ちょっと、嘘を混ぜておいた。素直に話しても、ルミナスが怒るだろうし。
だが関係なかった。ルミナスは頬を膨らませ、じろりとした瞳で俺を見下ろしてくる。
「な、なんだ? どうした?」
俺が焦って問いかけると、ルミナスは軽くため息をつき、顔を少し赤くしながら、口を開く。
「どうしたじゃないでしょ!? 朝からこんな……な、何してんのよ!」
セラフにしがみつかれている俺の状態を見て、ルミナスの声が若干上ずっている。
「いや……これは、セラフが勝手に……」
「言い訳しないでよ! セラフだって滝川だって、何をしてるのよ……!?」
「……いや、何っていうか――」
「こ、子どもの名前とか……もう決めたの?」
いやいや、何もしてないから。
ルミナスが顔を真っ赤にし、相変わらず思考を暴走させている。
どこかモジモジとした様子で、俺とセラフを交互に見てくるルミナス。
……仕方ない。気持ちよさそうに眠っているセラフを起こそうか。
「……セラフ、ちょっと起きろ」
俺はそっとセラフの肩を揺さぶったが、セラフは依然としてぐっすりと眠っている。
顔には穏やかな寝顔が浮かんでいて、とても可愛い。
「……うーん……滝川さん……もう……そこ触ったら……えっちですね……」
……おいおい、変な寝言を言ってんじゃねぇ!
「セラフ! いい加減にして! 朝から滝川にベタベタしすぎよ!」
「朝でなければいいということでしょうか?」
寝起きとは思えない落ち着いたセラフの声。
こいつ……! さっきから起きてやがったな!?
いきなり目を開けてルミナスに問いかけるセラフ。ルミナスは少し驚いた様子で気圧されながら、首を横に振った。
「あ、朝じゃなくてもダメよ! 不純異性交遊よ!」
……まあ、ルミナスもゲーム本編でたくさんえっちシーンがあるんだから細かいこと気にしないで、とも言いたい。
それとも、あれは不純異性交遊ではないからいいのだろうか。
「別に不純ではありませんよ。ね、滝川さん」
「……まあ、別に。ちょっと人生相談してただけだしな」
「……な、何よそれ?」
「ユニオンの今後について、お互い話し合っていたんだよ」
「……何よ。あたしには……何も相談してなかったくせに。セラフには話すのね」
……しまった。
ルミナスはセラフに常に負け続けているナンバーツーとして、セラフに強いライバル心を持っている。
今のような言い方をすると、そりゃあルミナスからしたら面白くないだろう。
ちゃんと、昨日話した内容について伝えた方がいいだろう。
「正確に言うと、セラフが俺のこと心配してたんだよ。春休みからここまで、流れるようにユニオン設立とかしてただろ? 俺が嫌じゃないかって、心配してたんだよ」
「……ユニオン、嫌だったの?」
「いや、そういうことはなくてな。ルミナスとセラフと一緒にやっていくのは楽しいって話をしていたんだよ」
「……ふーん、なるほどね。それでなんで、一緒に寝てんのよ」
それに関しては、説明できん。助けを求めるようにセラフをみると、彼女はふふっと口元を緩めた。
「そこは、私が抱き枕にしたかったからですね」
「……まったく。……昨日二人がその……色々してたのかと思っちゃったじゃない」
「色々、とはなんでしょうか?」
「な、なんでもいいでしょうが! ほら! さっさと離れなさいよ!」
ルミナスがセラフの体を引っ張るようにして、俺から引き剥がしてくれた。
……いやまあ、くっつかれることに悪い気はしないのだが……まあ俺も基礎訓練に行かないとだからな。
「俺はちょっとジョギングに行ってくる」
「……ん、分かったわよ。訓練、頑張ってきなさいね」
「くんれん……」
むくり、とその言葉に反応して体を起こしたのは霧崎だ。
ちらとこちらを見てから、にたぁ、と笑みを浮かべる。
「戦闘訓練、必要?」
「必要ない、寝てろ」
「ついてく」
……霧崎はすぐに目を覚ますと、体を大きく伸ばす。
「……本当にただのジョギングだぞ?」
「うん、ついてく」
その期待するような目をやめなさい、まったく。
それから着替えた俺たちは、朝の基礎訓練へと向かった。
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