第34話

「……っ!?」


 ゴブリンの顔面に拳がめりこみ、その体が吹き飛ぶと全身が霧となって消えていった。

 ゴブリンを倒した後には、魔石と素材がドロップしていた。

 ……うまく、戦えたな。

 初めての戦闘……そして恐らく初めてのレベルアップ。

 ゲーム本編と同じように戦えている自分に、わずかながらの感動を覚えつつ、ドロップした素材を回収する。


 霧崎の方をちらと見ると、彼女はすでに戦闘を終えている。

 ……視界の端で見ていたが、ゲーム本編ほどまではいかないが、すでに彼女はかなり強かった。


「うん、準備運動にはちょうどいい」

「……そうだな」

「それにしても……滝川、いい動きだった」

「それはどうも。霧崎もさすがだな」

「このくらいの相手なら問題ない。とりあえず、もっと奥に進んで早く滝川を育てる」


 ……彼女の両目は俺を完全に捉えている。

 どうやら、強くなった俺と戦いたいようだ。

 レベル上げはしたいのだが、あんまり上げると今度は霧崎の相手をしないといけなくなるのか。


 そんなことを考えながら、ダンジョンの奥へと進んでいくと、さらに虚影たちの気配が濃くなっていく。暗闇の中、黒い靄のような影がこちらをじっと見つめている。

 数は三体か。こちらに気づいた虚影たちは、ゴブリンの姿となって襲い掛かってくる。


「霧崎……今度はどうする?」

「三体、倒していい。滝川に経験値あげる」

「……了解」


 ブラックグローブに魔力を籠め、俺はゴブリンを迎え撃つように拳を固める。

 ……敵が複数体いるなら、魔法の準備をしておいた方がいいだろう。

 突っ込んできたゴブリンの攻撃をかわしながら、俺は一体へと雷魔法を放った。


 俺の手から放たれた雷が、ゴブリンの体をまっすぐに射抜いて吹き飛ばす。

 ……一撃か。まあ、このくらいの相手ならそれもそうか。そんなことを考えているとゴブリンが飛びかかってきたので、俺は足元から氷の壁を作り出す。


「づあっ!?」


 悲鳴のようなものを上げ、ゴブリンがよろめく。……まあ、壁に頭から突っ込んだみたいなもんだからな。

 氷の壁を変化させ氷の矢を放つ。よろめいていたゴブリンの体へと突き刺さり、そちらも霧となって消滅していった。

 あと一体!

 氷の壁の横から飛び出してきた最後のゴブリンの攻撃をかわし、俺はブーツへと魔力を込める。


 ……拳スタイルだと、足技も使えるからな。このブーツにも同じように魔力を溜めることで、攻撃は可能だ。

 地面を蹴りつけ、こちらへと振り返っていたゴブリンへ……俺は足を振りぬいた。


「……があっ!?」


 ブーツに貯まった魔力が、ゴブリンへと当たった瞬間、爆発したかのような衝撃波が襲い掛かる。

 ……これも、一撃だ。魔力については散々鍛えているので、まったく魔力切れを起こすということもない。


「……威力、高い」


 これまで、脳内でシミュレーションしていた通りに事が進んでいるので嬉しい気持ちはあった。

 ちょっとふざけた調子で俺は霧崎に問いかける。


「ふっふっふっ、凄いか?」

「……凄い、と思う。正直……私は初めからそこまで強かったわけじゃない。さっきみたいに、魔法と組み合わせての戦闘とか、私は最初からできなかったし」


 ……まあ、それは性格の問題もあるだろう。霧崎は剣で敵を斬る感触が好きなんだしな……。

 彼女の俺を見る目がそれはもう楽しそうであった。

 俺は自分の戦闘スタイルを確認しているだけなのだが、もう完全に彼女のターゲットにされてしまっているな。

 何度か戦闘を行っていたおかげで、俺の右手首につけていたアクセサリーであるミサンガが淡い光を放っている。

 俺が購入したハードミサンガは、レベルアップ時のステータス補正だけではなく、与えたダメージの一定量の魔力を内包する効果がある。

 

 敵に与えたダメージを魔力として吸収してくれるので、拳系で長時間戦闘を行う場合はほぼ必須と言っていい装備品だ。

 まあ、今の俺はかなり鍛えたおかげで霧崎に匹敵するくらいの魔力はあるが、魔力なんていくらあっても困らないからな。

 ミサンガに貯まっていた魔力を俺の体内へと吸収しつつ、霧崎に視線を向ける。


「とりあえず、問題なさそうだし……二手に別れるか?」

「二手に?」

「ああ。俺は一階層か二階層でレベル上げをしていくつもりだ。霧崎はもう少し奥に行きたいんじゃないか?」


 さっきから、うずうずしている。彼女の周囲にそんな効果音が見えてきそうなほどだったしな。


「私、ミカエル様に滝川の成長を見守るように言われてたけど……い、行ってきていい?」

「ああ、いいぞ」

「それじゃあ……行ってくる……!」


 俺の返事を受けた彼女は、ボールを投げた後の子犬のように喜んで走り出した。

 そりゃあ、一人になると危険ではあるが……俺としても、彼女が近くにいると経験値が分配される可能性があるからな。

 別に急いで強くなる必要はないのだが……やはりゲーマーとして無駄な行為はしたくない。


 できるのなら、最短で強くなりたい。


 ……ふふふ、モブではあるが最強目指して頑張らないとな。

 ゲーム本編が始まったら俺は主人公のストーカーのように観察することになる。

 悠長にレベル上げなどはできないので、今のうちに強くなっておきたいのだ。



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