第33話
ダンジョン内の構造としては、一階層、二階層、三階層……といった感じで、下へと続く階段が続いている。
階層の先へと進んでいくと、出現する虚影も強力なものになっていくというよくあるダンジョンだ。
ダンジョンの周囲を確認する。背後を見れば、入ってくるときに見た石造りの門がある。その扉に手を触れることで、このダンジョンから抜け出せるがまだ帰るつもりはない。
俺は改めて、静穂ダンジョンへと視線を向ける。
目の前に広がるのは、想像を遥かに超えた草原だ。
どこまでも続く青々とした草原。
空には、本物の太陽のようなものまでもあり、ダンジョン内を照らしている。
風が吹き抜け、草がサワサワと揺れる音。五感を満足させてくれるそれらを感じ取りながら……俺はもう興奮が抑えきれずにいた。
ダンジョンは似たような地形のものが多く、この静穂ダンジョンだってゲームで見てきた他のダンジョンとそう変わらない。
しかし、リアルとして体験するのは話が別だ。
ゲームじゃ感じられなかった「リアル」が……俺の全感覚に喜びを与えてくれている。
ゲームとしてかなり作りこんでいたが、それでもどうしたって限界はあった。
だが、このリアルな世界にそれはない。もうそれが感動だ。感動で膝が震え始めている。
少ししゃがみ、生えていた雑草に触れる。
……ああ、本物だ。草の一枚一枚まで……まじでリアルすぎる。
ゲームでは味わえなかったこの感触!
草を踏む感覚、風のそよぐ音、遠くに聞こえるかすかな虚影のものと思われる鳴き声までもが、まるで俺を歓迎してくれてるみたいだ!
現実でこんな体験ができるなんて、もう嬉しすぎて言葉が出ない……!
全身がワクワクで震えている。ダンジョンへの緊張はもちろんあったが、今は悦びがそれを上回っている。
「虚影たちと戦う準備はできてる?」
霧崎がそう言いながら、軽くストレッチをしている。
彼女は、今すぐにでも戦いたい様子だった。……それは、俺としてもそうだ。
身に着けた装備品を確認してから、頷く。
「ああ、大丈夫だ」
「それじゃあ、探しに行こう」
霧崎がてくてくと歩き始め、俺もその後をついていく。
その途中で、霧崎が思い出したようにこちらに一つの箱を投げてきた。
……これは、アイテムボックスか。よくあるゲームの便利アイテム。持ち物を自由自在に入れて置けるものだ。
「それ、ミカエル様が貸し出してもいいって話だったから、使って」
「……いいのか?」
「うん。新規のユニオンができたら、一つは渡すことになってるから」
ゲーム本編でもそうだったな。
アイテムボックスをポケットにしまってから、ダンジョンを歩いていく。
しばらく歩いていると、眼前に黒い霧のようなものが見えた。
……虚影か。
俺たちの方へと近づいてきたそいつは、黒い影の見た目をしながらも……人型をとった。
「ゴブリン種の虚影……」
「……残念そうだな」
「だって、凄い弱いから」
「それなら、俺が戦ってもいいか?」
「……一体はもらう」
弱い虚影といっても、体は動かしたい様子だ。
俺の目の前には二体の黒い影がうごめいている。手には、棍棒のようなものを持っている。
……虚影は、全員黒い影の見た目をしている。ただ、ゲームでよく出てくるような魔物たちがモデルとなっていて、こいつはゴブリンがモデルだ。
ゲームで戦うときも、ゴブリン、という表記になっている。
「……っ」
早速、ゴブリンがこちらへと跳びかかってくる。
……動きは、かなり遅いな。
俺はさっと振りぬかれた棍棒をかわす。……まずは、このブラックグローブの性能を確認してみるとするか。
このゲームでは、各武器ごとに特徴のようなものがある。グローブ系の武器は、魔力をグローブに溜めることでダメージを増加させられる。
俺はグローブへと魔力を込めると、グローブが淡い光を放った。
ゴブリンが棍棒を振りぬいてきたが、それをさくっとかわし……拳を振りぬいた。
……ゲームだと、ボタン連打でコンボを繋げることができたが、今は自分でやらないとな。
右と左の拳を振りぬいていき、ゴブリンを殴りつける。……虚影を殴っている感覚は、クッションなどを殴っているような感覚に近い。
虚影は出血もなく、殴られた部位から黒い霧が血のように漏れ出るだけ。
……正直、戦っているという感覚はそこまでない。それこそ、体感型のゲームでもやっているくらいの感覚。
「……ヅ!」
ゴブリンが悲鳴のような声をあげながら、棍棒を振るってくる。
……がむしゃらな一撃に、俺は……回避行動をとる。
ゲームでは、攻撃の途中で回避するにはロールで攻撃キャンセルを行いながらの回避しかなかったが……リアルは違う。
攻撃の途中に回避などのキャンセルを挟まなくても、上体を僅かに逸らすだけでかわせる。
別に格闘技の経験はそれほどないのだが、契約したことで基本スペックが上がっているようで回避はまるで問題がなかった。
……さっさと、決めるか。
それまで軽めに攻撃を繰り返していたが、俺はグローブに込める魔力をさらに増加させ……思いっきり殴りつけた。
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