第31話

「あれ? 男の人と一緒だなんて……これはご両親に報告しないとか!?」

「そういうのじゃないですから。先輩の契魂者として、色々と教えてもらうために同行してもらってるんですよ」


 霧崎関連で変なイベントが発生しないよう、さっさと訂正しておく。

 誤解から変なイベントが起きたら叶わないからな。

 それにしても、霧崎は地元ではかなりの有名人のようだな。


 霧崎も、淡白な調子で返事をしているのだが、心なしかいつもよりも楽しそうだ。

 ゲームでは、こういった姿はあまり見ていなかったな。

 ゲーム本編が始まる前だからこそ見られるものであり、俺としては新鮮な気持ちが強かった。


 さらに周りの人たちも霧崎に気づいていき、次々と声をかけられていく。

 ……しばらく、動けそうにないな。

 タイムリミットがあるとはいえ、このくらいの時間を削るほど切羽詰まってはないのでいいんだけど。


「霧崎ちゃん!この前の討伐、すごかったよ!ニュースで見たよ!」

「そんなに凄いことしてない」

「久しぶりだね、霧崎ちゃん。相変わらず元気そうでよかったぁ」

「うん、元気」

「うちの孫も霧崎ちゃんみたいになりたいってうるさいのよ」

「それは、楽しみ。いつか手合わせできる日が来るのを待ってる」


 霧崎は、ひとりひとりに短く返事をしていくだけで、特に感情を表に出すことはない。

 しかし、その態度が逆に住民たちにとっては「いつも通り」といった安心感を与えているんだろうな。

 俺がその様子を見ていると、地元の人たちだけではなく契魂者たちまでも注目してくる。


「……あれってもしかして霧崎さんじゃないか?」

「ま、まじで……!? ミカエルユニオンのめちゃくちゃ綺麗で強い人だよな!?」

「……うわぁ、生で見たの初めてだ! 今度友達に自慢しよ!」

「い、一緒にいる男は何者だ……?」


 ……うおい、俺にまで注目しなくていいから。

 さすが霧崎だ。

 一年前の時点ですでに現役最強と評されているだけのことはある。

 しばらく挨拶をしていた霧崎だったが、


「今日は予定があるから、また今度。滝川、そろそろ武器屋に寄ろう」

「別にゆっくりしてても大丈夫だぞ?」

「平気。またいつでも来れるから」


 ……いつでも、か。俺はこれから先に起こる未来のことを思い、心が痛んだ。

 俺は霧崎とともに通りの先にある武器屋へと歩を進めていく。


「おっ、いらっしゃい霧崎ちゃん。どうしたんだ?」

「今日は武器を見にきた。今日から、ダンジョンに潜る予定の人の案内みたいな感じ」

「ああ、なるほどね。それじゃあゆっくり見ていってくれ」


 店員に言われるまま、俺は武器を眺めていく。


「そういえば、滝川はどんな武器を使うの?」

「俺は……拳だな。グローブ系の武器を探すつもりだ」

「それなら、こっち」


 武器については色々と悩んでいたのだが、俺がこのゲームをプレイする時は拳で戦うことが多かったので同じ武器にするつもりだ。

 薄手のグローブや重厚な革製のものまで、一通り揃っている。

 ……今の俺の手持ちは、そこそこある。一人暮らしを始めるにあたり、家族が結構な金額を持たせてくれたからな。


 とはいえ、武器を買うとなるとその武器一つで限界、か。

 できれば、他にも装備品は欲しいんだけどなぁ。


 さて、どれにするか。

 今購入できるもののなかで、一番強い武器を購入するのがいいと思うが……このゲームの攻略法を知っているなら大正解、というわけではない。


 ゲームの装備品は単なる防具や武器としての役割だけではなく、レベルアップ時にステータス補正がかかる。

 基本的には強力な装備品ほどステータス上昇の幅が大きいのだが、それとは別にレベル上げ用のおすすめ装備品というのもある。


 最終的には、クリア後のダンジョンを周回していればステータスを底上げするアイテムが手に入るのでいいが……さすがにリアルでそこまでできるかは分からないからな。


 俺はいくつかあるグローブの中、一つを手に取る。

 ゲーム本編でもよく使っていたブラックグローブと呼ばれるレベル上げ用の装備品だ。

 軽く手にはめてみたが、悪くない。


「拳で戦うのは珍しい」

「そうか?」

「だいたい皆武器を使うから」


 ……確かにな。

 ただ、ゲーム的にもグローブは決して悪くない。


 剣や槍といった重量のある武器には隠しパラメータとして重量が設定されており、装備を身につけるごとに僅かに移動速度が落ちる。

 ほとんど誤差の範囲ではあるが、軽装装備と重装装備では本当に僅かながらに基本速度にマイナス補正がかかる。


 剣などと比べ、グローブはその影響がまったくない。

 つまり、スピードを最大限に活かして戦うのなら、グローブが一番だ。

 ……もちろん、装備品によるステータスへの補正も少なくなってしまうんだけどな。

 そこは、基本ステータスを強化していってカバーすればいい。


「俺はこの方がやりやすいんだ」


 ……他にも、レベルアップ用の装備品を身につけたいんだよなぁ。

 装備品を身につけて戦闘すると、その装備品自体も成長する。ゲームでは三つまで装備をつけられるため、とりあえず三つ装備しておきたい。




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