第25話

 ホームルームが終わり、ミカエルが教室を出ていく。


「それじゃあ、ちょっと職員室に行ってみましょうか」

「そうね。何話すのかしらね?」

「まあ、今後の活動についての確認ではないでしょうか?」

「俺も、そうだと思うな」

「それなら、早くいくわよ!」


 ルミナスは家の期待に応えるためにも、ユニオンを大きくしたいという目的がある。

 だからか、誰よりも乗り気だな。

 目を輝かせているルミナスとともに、俺たちも後をついていった。



 職員室に到着すると、教員たちからの視線が俺たちへと集まった。

 ……教員たちもここまで注目してくるんだな。

 まあ、指導した生徒が将来有名になれば、自分の実績として自慢できるしな。

 俺という特異な存在ともなれば、狙いをつけられる可能性は高い。

 モテモテで辛いもんだぜ。


 そんなことを考えていると、ミカエルが手招きをしてくる。

 さすがに、ミカエルの邪魔をするような教員はいなく、俺たちは無事ミカエルの席までいくことができた。


「さて、今日は三人のユニオン活動について少し確認したいと思います」

「どんなことですか?」


 ルミナスが楽しそうに問いかけるら。


「今後、どのようにユニオンとして活動していくか、もう考えてるの?」


 そう問いかけられたが、正直なところまだどのように動いていくのか方向性くらいしか考えていない。

 ルミナスが笑顔とともに答える。


「しばらくは、大手ユニオンが受け切れない依頼などを捌いていこうかと思っています。滝川が強くなるためにも、虚影狩りとかがメインになるって感じですかね?」


 ゲームのように成長できるのなら、虚影狩りを行い、レベル上げはもちろん装備のドロップを狙うのがいいだろう。


「なるほどね。それなら、ちょうどいい提案があるんんだ」

「なんですか?」

「静穂市って知ってるかな?」

「はい! もちろんです!」


 ルミナスは元気よく返事をしていたが、俺の心は少しざわついていた。

 ミカエルが首を傾げた時に揺れたおっぱいに心惹かれたからではなく、静穂市があまりよろしくない場所だからだ。


 静穂市……脳内のカレンダーを思い出す。

 まだ静穂市は……この時期だと残ってるな。


 というのも、静穂市はゲーム本編では復興中の市として出てくる場所だ。

 虚獣が暴れまくってしまい、市全体が機能停止してしまった……という、虚獣による事件についてを示すための場所としてその市は用意された場所だからだ。


 世界観を作ったときの資料を思い出してみると……今から一ヶ月後になるな。

 そんな俺の内心とは裏腹に、ミカエルはぽつりと漏らした。


「今、静穂市では契魂者が不足していて、ダンジョンに封じ込めている虚影たちを討伐する者が少ないの。だから、あなたたちにその市で活動するっていうのはどうかなって思ったんだ」


 ダンジョン。ガブリエルユニオンのガブリエルの力によって、天魔都市以外の地方都市では、ダンジョンというのが存在する。

 ダンジョンは街内にいる虚影たちを封じ込める結界のような役目をしていて、そいつらを吸い寄せ、封じ込める力を持っている。


 なので、夜などにおいてもほとんど虚影はいないため、ユニオンなどがなくても比較的、安全に暮らせるようになっていた。

 「そんなことができるなら契魂者なんて必要ないじゃん!」という意見もあるかもしれないが、ダンジョンはあくまで封じ込めるだけの箱に過ぎない。


 箱に荷物をたくさん入れたらどうなるか? 単純だ。封じ込めていた虚影が溢れてしまう。

 ……静穂市が崩壊した背景には、そういった理由があった。

 なので、封じ込めたダンジョン内の虚影を狩る契魂者が必要であり、それがこの世界でのレベル上げ、ダンジョンと呼ばれるものになる。


 ……ただ、この静穂市のダンジョンでは水面下で虚影たちが力をつけ、着々とダンジョンから脱出する計画を立てているのだが。


「静穂市は、契魂者が少ないし……虚影もそれほど強くないですよね?」

「配置されている契魂者が少なければ、それだけ経験値も稼ぎやすいわよね?」


 セラフとルミナスはそれぞれ前向きな考えを口にしている。 

 確かに、二人が言うように静穂市の適正レベルを考えれば、俺のような契約したばかりの契魂者にとっては悪くない。

 田舎すぎて、車がないと生活に不便という点を除けば、今の俺には嬉しい狩場だ。


 ただ、俺はすでに静穂市の未来を知っている。そこで待ち受ける災厄を考えると……あまり長居はできないな。

 静穂市を救いたいとか、そういう考えは一切ない。むしろ、静穂市にはゲーム本編と同じように崩壊してほしいと思っている。酷いかもしれんが、そうでないと、ゲーム本編に歪みが出てしまうからな。

 俺がすでに散々歪ませている以上、せめて少しでもゲーム本編と同じような状況にはしておきたいし。


「少し、質問いいですか?」

「何かな?」

「静穂市で活動するってなると、しばらく学園には来れないですがそこは大丈夫ですか?」


 大丈夫なのは、ゲーム知識で知っているが一応確認。

 ゲームでは、遠征の場合は一定の単位が認められるし、授業はリモートで受けられるという設定があったので特に大きな問題はない、ということになっていた。

 俺も別に、今更高校の授業を受けなくてもいいし、この世界の歴史についてはゲーム本編には出されていないような設定含めて誰よりも詳しいので、授業を受ける必要はないが。


「大丈夫だよ。リモートもあるし、遠征で契魂者として活動していれば単位として認めるからね」

「分かりました。……それじゃあ、とりあえず様子見で四月中だけ静穂市で活動するとかは大丈夫ですか?」


 静穂市で発生する虚影侵食――虚影や虚獣がダンジョンから溢れ出す現象――は五月五日に発生する。

 うちのサイコパスな社員である渋沢が「子どもの日に大事件が起きたっていうほうが絶望的じゃないっすか! ほら! 鯉のぼりとかがズタズタになって地面に落ちて、血とかついているの想像したら最高じゃないっすか!」と鼻息荒く言っていたことで、その日に決まった。

 基本的にえぐいシーンの担当は渋沢が行っている。まじであいつは頭がいっている。

 ゴーサインを出したのは俺なんだけど。






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