第24話

『ミカエルユニオンのミカエルです。皆さん、静かにお聞きください』


 ミカエルの澄んだ声が体育館に響き渡り、生徒たちの注目が集まる。……さすがだな。

 声一つで場の空気を一変させるなんて、圧倒的な存在感だ。


『この場を借り、新しく設立されたユニオンについての紹介を行いたいと思います』

 ミカエルの声に合わせ、俺の肩が叩かれる。視線を向けると、ルシファーがこちらへとやってきて俺たちの誘導を行ってくれる。

 ルシファーの後をついていくようにして、俺たちはステージ脇へと歩いていく。

 俺たちが配置についたのを確認したところで、ミカエルが言葉を続けた。


『ユニオン名は、セラフ&ルミナスユニオンになります。代表の天使と悪魔は、セラフ・ルナールアとルミナス・ヴェスペリヌス』


 会場が、驚いたような声に包まれていく。

 二人がユニオンを設立したことは知られていたようだが、二人で一つのユニオンを作ったとはクラスの人たち以外には伝わっていなかったようだ。


『そして彼女らと契約している契魂者は滝川悠真一名になります。彼らは天使と悪魔、二人でユニオンを結成し、活動を開始することになりました』


 ミカエルのその言葉で、さらに体育館内は騒然としていく。


「天使と悪魔のユニオンって……マジで……?」

「セラフさんとルミナスさんの二人のユニオンって……凄すぎないか!?」

「契約者が一人ってどういうことだ? もしかして、一人が二人と契約しているのか!?」


 どよめきが広がる中、体育館の端に並んでいた他のユニオンのリーダーたちもこちらをじっと見つめているのが分かる。

 彼らは驚き、というよりは観察という目だ。……自分の陣営に引き込めないか、そう考えているような探る視線。


 紹介も終わったところで、俺はセラフやルミナスに倣って軽くお辞儀をする。拍手がされていき、それを確認したところでミカエルがこちらを見てきた。


『彼らのユニオンは、これから活動を本格的に始めていきますが……まだ、契約できる契魂者は一名が限界のようです。ですので、しばらくは募集などはできませんが皆さん、応援してあげてくださいね』


 ……それは、セラフやルミナスの負担を軽減するための言葉だろう。

 ミカエル様が優しく微笑みながら言葉を続け、無事俺たちの紹介も終わった。

 ステージを降りたところでルミナスがほっと息を吐いていた。それを見ていたセラフが、微笑を向ける。


「ルミナスさん、少し緊張してましたね?」

「……は? 別に緊張とかしてないし」

「足震えていましたよ」

「別に、そんなんじゃないし」


 セラフがからかうようにルミナスに声をかけると、ぷいっと視線を外に向ける。

 ……二人は相変わらずのようだな。

 俺たちが列へと帰っていくと、より一層視線が俺に集まったような気がした。

 とりあえず、俺の学園生活はしばらくモブからかけ離れたものになりそうだな。


 入学式も無事終わり、俺たちは再び教室へと戻った。

 ……前より一層注目されるようになってしまったな。

 セラフやルミナスはもちろんだが、俺にも視線が集まっているのは、ユニオンの発表をしたからだろう。

 教室に戻って席に座るや否や、クラスメートたちが俺たちの元に集まってきた。


「滝川くん! ちょっといいかな!?」

「……なんだ?」

「二人とユニオン組んでるんだよね!? 契約も二人としてるんだよね!?」

「あ、ああ……そうだけど……」

「ど、どうやってやったの!? 二人と契約できるなんて前代未聞のことだよね!?」


 質問攻めだ。……そりゃあまあ、契約を複数しているのは気になることだとは思うが、俺としてもそのことを詳しく説明するつもりはない。

 あんまり話さない方がいいって言っていたしな。セラフとルミナスがちらと心配するようにこちらを見てきたが、俺は苦笑とともに口を開いた。


「詳しいことは俺もよく分かってないんだ」

「えー、そうなの? でも、凄いなぁ……」


 目の前の女子からの尊敬の眼差しに俺も口元が緩む。彼女はゲームに登場しているキャラクターではない、本当にただのモブである。

 俺も、このくらいの子と恋愛を楽しみつつ、ゲーム本編の物語を楽しむつもりだったんだよな。


 まあでも、恋愛を楽しむという部分では別に今からでもできなくはないのか。

 そんなことを考えていると、他の人たちが羨ましそうな声をあげる。


「二人と契約できるなんて、いいなぁ……」

「セラフさんとルミナスさんは絶対上級になれると思ってたけどまさか先越されちゃうなんてなぁ」


 そう言われても俺は何も言えないので苦笑を返していると、教室の扉が開いた。

 ミカエルがゆったりとした足取りで教室に入ってくる。


「皆さん、入学式お疲れさま。これからホームルームを始めるね」


 ミカエルが教壇に立ち、優しい声で話し始めると、それまで賑わっていた教室全体が静かになり、それぞれが自分の席へと向かっていく。

 皆が着席したのを確認したミカエルが、微笑を浮かべた。


「それじゃあ。進級組の子はもちろん、入学組の子たちにも改めて。ようこそ、魂翼学園へ。……これから、学園生活が始まるわけだけど、皆さんそれぞれ目標を持って、この学園での生活を楽しんでね。色々と大変なことも多いし、焦る気持ちもあるかもしれないけど……リラックスして学園生活を送っていってね」


 ミカエルの言葉に、教室の生徒たちは頷きながら真剣に耳を傾けている。

 ……霧崎の姿はないな。彼女は、あんまり品行方正の生徒ではない。正直言って、彼女の圧倒的な才能があるから許されているが、普通の学校なら卒業することはできないだろう。


 今頃は、訓練場にでもいって手当たり次第に誰かに戦いを挑んでいることだろう。

 しばらく学園生活に関するアドバイスや、注意事項などを話した後、ミカエルが俺たちに視線を向けた。


「それじゃあ、ホームルームは終わり。……滝川さん、セラフさん、ルミナスさんの三名はこの後、職員室に来てくれるかな? ユニオンに関する話があるから」


 その言葉に、俺たちは顔を見合わせる。

 どんな話をされるんだろうな? ゲームでは、ユニオンを設立したばかりのときはミカエルかルシファーから色々とサポートが受けられていた。

 ……恐らくは、仕事などを斡旋してくれるんだろう。



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