第23話

 ……とても可愛らしい姿だ。ゲームの時よりもかなり感情豊かだが……たぶん、まだ霧崎に関する事件が色々発生していないんだよな。

 彼女はこの一年間、激動の日々を送っていく。それで、心が擦り切れた状態で主人公に出会い、その悩みを打ち明けていくのが霧崎に関しての物語だ。


 まあ、俺はゲーム本編を楽しみたいというのは変わらないので、彼女に深く関わるつもりはない。

 あくまでモブに、戻らせてもらう。

 俺たちも式に向かう準備をしようとしていると、突然教室の扉が開いた。

 そちらには……ミカエル様がいた。


「セラフさん、ルミナスさん、滝川さん、ちょっといいかな?」


 彼女の水色の髪がふわりと揺れていて、穏やかな微笑。

 そういえば、一年の時はミカエルがセラフたちのクラスの担任という設定だったか。

 この学園では、ユニオンのリーダーも教員として活動している。上級天使、上級悪魔などがそれぞれの経験や知識を使い、指導している。


 ……まあ、それっぽい理由をつけているが、ミカエルとかルシファーのキャラデザがいいのに、そんなに関わりがないというのはもったいないので、教員にするための理由をつけただけではあるが。

 あと、開発者の一部が、『教師とそういう関係になりたい!』という欲望を爆発させたからだ。


 生徒の中にも霧崎のような現役の契魂者がいて、皆で情報共有をしながら成長していけるのがこの学園の環境だ。


「入学式の際に三人のユニオンについての説明もするから、ちょっとだけステージに呼ぶからよろしくね」

「「分かりました」」


 セラフとルミナスが笑顔で頷き、俺も遅れて頷いておく。

 内心、マジかよ……もうモブとか無理じゃん……って思いが強かったのは、隠しておいた。



 俺たちは、体育館に向かって歩いていた。

 周りを見渡せば、ゲーム本編で見たようなキャラクターの姿が多く見られた。

 メイン級ではないが、サブキャラクターや仲間としてスカウトできるキャラクターたちだ。


 ……エロゲーなので、基本的に女性キャラクターが多めだ。そもそも、契魂者というのは女性の方が優秀な人が多いという設定なのだ。もちろん、美少女を出すための理由で深い意味はない。


 そんなこんなでサブキャラクターたちを見つけては一人興奮しながら体育館へと到達すると、ルシファーを始めとした他の有名ユニオンのリーダーたちを見つけることができた。

 ミカエル様はユニオンで会った時と同じ服装だったが、ルシファーたちはスーツでびしっと決めていた。


 ルシファーの貫禄ある佇まいは、さすが悪魔陣営ユニオンのトップクラスであることもあって威厳たっぷりだ。

 ちらと視線を向けた俺に気づいたのか、ルシファーはにこりと勝ち気な笑みを向けてくる。

 確実に、俺に対して微笑みかけたような気がする。


 なんて幸せ者なのだろうか俺は。さらにいえば、他のユニオンリーダーたちも、俺に気づいては注目するように視線を向けてくる。

 ゲームでもそれなりにイベントのあった彼女たちに注目されているということは、モブであってはいけないことではあるのだが、こうして彼女らを見ることができて幸せの極みだ。


 周囲を見渡せば知っている仲間にできるキャラクターたち、ワンシーンのみではあるがえっちなシーンが搭載されているサブキャラクターの数々。


 彼女らのすべてのシーンを脳内で思い出し、ゲームのキャラクターたちと出会えた喜びに全身が歓喜の震えを起こしている。

 嬉しすぎて呼吸困難になりそうだ。


 過去一番に幸せの状況で、自分の脳が「限界だ」と悲鳴を上げているのが分かるけど、もう引き返せない。


 今すぐに、「この世界に転生できて良かった!」とでも喜びを顕にしたいが、そんなことをしたら間違いなく変人認定されてしまうだろう。そんなことは分かっている。分かっているが胸の高鳴りは今も続いている。

 ……くそぉ。なんて幸せな空間なんだ。

 無理だ、心が持たない……! こんな空間で入学式を迎えるなんて……!

 手のひらに汗がにじみ、心臓の鼓動が耳元で響いているような錯覚。

 はぁ、尊い……尊すぎて死んじゃいそうだぜ……!


 内心で絶叫しながら、必死に顔には出さない。

 

 俺はセラフとルミナスとともに列に加わった。周囲の生徒たちからの視線がじわじわと俺に集まっているのを感じる。

 セラフやルミナスに注目が集まるのは当然だとしても、俺にも視線が向けられているのは……まあ、すでに俺たちの噂が広まっているからなんだろう。


 体育館に設置されていた椅子にクラスごとに座っていく。俺たちは途中で抜け出すこともあってか、最後方に座るように誘導された。

 

 すべてのクラスが体育館内に入っていき、着席していくとすぐに入学式が始まった。

 壇上には校長先生が立っており、淡々と式の挨拶を始める。

 校長先生はとても若々しい美女だ。最初はおじさんの校長にしようかという話もあったが、『美女がいい!』と皆が言ったので、彼女になった。

 明らか、年齢的に校長になることは難しそうにも感じるが、そこはまあファンタジー世界なので気にしては行けない。

 この世界には、姉妹で通用しそうな若い母親なんていっぱいいるしな。


 校長先生の話している内容は至って普通だ。天使や悪魔には上を目指していってほしいこと、契魂者見習いの人たちには、契魂者として市町村を守っていく立場であるという自覚を持つこと、そして最後に共通して、学園生活の心得といった内容が語られていく。


 眠たくなる内容だし、校長先生の声優さんが落ち着いた声をしているものだから余計にそうだ。


 しばらくして校長先生のスピーチが終わり、いよいよ式も終盤に差し掛かった。

 その時、ミカエル様が壇上に立ち上がり、マイクを手に取った。



―――――――――――――――

もしよろしければ、【フォロー】と下の【☆で称える】を押していただき、読み進めて頂ければ嬉しいです。

作者の投稿のモチベーションになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る