第26話
俺の計画としては、静穂市である程度レベル上げをしたら、虚影侵食が発生する前に天魔都市へと逃げ帰る、というものだ。
「うん。あんまり長くいても大変だしね。静穂市での活動は、そのくらいでいいと思うよ。そのくらいダンジョンに潜っていたら、静穂ダンジョンだと物足りないくらいになってるかもだしね」
まあ、そうだろうな。
設定上では、暴走前の静穂ダンジョンの難易度はEランクだ。
Gランクが最低であり、下から数えた方が早いダンジョンになる。
俺なら数日入れば、すでに物足りないレベルになっているかもしれない。
「分かりました。セラフ、ルミナス。……俺は静穂市のダンジョンに向かおうと思うけど、別にいいか?」
「ダンジョンに潜るのは滝川なんだし、滝川のやりやすいようにやっていいわよ?」
「はい。滝川さんがやりやすいようにやってくださいな」
……二人ならそう言ってくれるだろうな。
しばらく静穂市で活動し、問題が発生する前に逃げる。
今の俺の最適なプランだな。
「それじゃあ、当日の案内についてなんだけど……遅いなぁ」
「どうしたんですか?」
「案内をお願いしようと思ってた人を呼んでおいたんだけど、まだ来なくて」
ミカエルは少し苛立った様子で頬を膨らませる。……子どもっぽい仕草で、普通の人がやったら「ぶりっ子め」と思わなくもないが、ミカエルがやるとなる話は別だ。
とても愛おしい姿であり、脳内で癒される。
ミカエルがちらと職員室の扉へと視線を向けた時、勢いよく開かれた。
その音に、近くにいた教員がびくっと肩を上げる。それから、注意するように視線を鋭くする。
扉を強く開けたのは霧崎だ。
「霧崎さん……あのですね――」
「三角先生。もしかして、怒ってますか?」
「……ええ、怒っています。職員室の扉はもっとゆっくりと開けて――」
「それなら、戦闘訓練でしごいてほしい。……訓練場、借りてるから……行こう!」
「や、やりません! あなたそもそもミカエル先生に呼ばれてきているんじゃないですか!?」
「あっ、そうだった。……ミカエル様。バトルの話?」
「違うよ?」
霧崎美月が……こちらへとやってくる。俺を見つけると、彼女は興奮した様子で目を輝かせる。
「滝川悠真。もしかして、決闘?」
「違う」
「受けてたつ」
「話を聞け、話を」
霧崎にバトルジャンキーの設定をつけはしたが、ここまで酷かったか!?
バトルジャンキーな彼女は、好感度を高めるとバトルジャンキー成分が性欲にも割かれるようになり、あちこちで「今しよう!」という痴女に生まれ変わる。そのため、霧崎とのプレイは教室や屋外といったわりとヤバめのシーンが多いのだが……今は忘れておこう。
俺の手をとり、職員室から連れ出そうとする彼女の腕を、ミカエルが掴んだ。
「霧崎さん、ここは職員室だよ。それに、これから大事な話があるから、少し落ち着いてね」
「大事な話……滝川悠真とのバトルの日程調整?」
「静穂ダンジョンの虚影処理だよ。今度、霧崎さんに行ってもらう予定だったけど、それに滝川くんも同行してもらうことになったんだ。そういうわけで、現地の案内はお願いね」
「……っていうことは、いつでもバトルし放題?」
「そこはまあ、本人と話してね」
「……俺はやらんぞ」
俺に振らないでください。
霧崎相手にしたって今の段階ではレベル差もあるからな。
……ゲーム知識を使えば、なんとかなると思うがそんなことして勝ったら余計に霧崎に興味を持たれるだろうし。
わざと負けたら負けたで、手を抜いたのがバレる可能性もあるしで、霧崎と戦うメリットはない。
「日程については改めて決めるとして……静穂ダンジョンの依頼を受けてくれるの?」
「……改めてもないが、依頼は受けるぞ」
「……ありがとう。静穂市は私の故郷だから。人手が足りなくていつも困ってた」
嬉しそうに霧崎は微笑み、丁寧に頭を下げてきた。
……そういえば、霧崎は静穂市出身だったな。
彼女が一年後、ミカエルユニオンで最強の氷姫と呼ばれるようになったのが、まさに静穂市で発生した虚影侵食だ。
虚影侵食が始まった瞬間、霧崎は第一天魔都市にいた。そのため、虚影侵食が発生したあとに駆けつけての対応になってしまい……霧崎が虚影侵食を止めることはできたが、彼女の家族や知人の大半は失ってしまうのだ。
それからの彼女は今以上に感情表現が乏しくなる。
霧崎のストーリーは、主人公に心を開き、主人公に依存していく様子や過程が大事なのだ。それには、彼女の心の弱さが必要になる。
……可哀想ではあるが、俺はゲーム本編を大きく歪めるようなつもりはないわけで、静穂市について俺が干渉する予定はない。
「出発はいつにするんだ?」
「いつでもいい。車はミカエルユニオンで出してくれるから、あとは滝川たちの準備が出来次第で」
「分かった。いつにする?」
「最低限の着替えくらいあれば大丈夫だと思いますし、明日にでも出発できると思いますよ」
「そうね。明日でいいんじゃない?」
「分かった。そういうわけで、出発は明日でもいいか?」
俺が霧崎に問いかけると、彼女はこくりと頷いた。
「分かった。それじゃあ、明日滝川たちの暮らしてるアパートに迎えに行く」
「場所知ってるのか?」
「うん。今朝知った」
「尾けたんじゃないよな?」
「そうともいうかも」
……こいつめ。
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