第19話


 ゲーム知識がどこまで通用するかは不安だったが、俺が魂翼学園に入学できたとおりきちんと訓練の効果は出ていた。

 半年前は魔力量がGランク程度しかなかったにも関わらず、現在はSランクにまで到達しているほどにはな。


 ゲームと違ってステータスを確認することはできないが、魔力量が合格ラインに到達してからは他の基礎訓練も行うようにしている。

 今日は、ランニングの日だ。


 玄関でランニング用の靴に履きかえ、いつものようにイヤホンで音楽でも聴きながら走ろうかと思っていたのだが……そこでスマホを取り出してふと考える。

 ……セラフとルミナスにメッセージを送っておいた方がいいか。

 さすがにまだ二人は眠っていることだろう。それで、朝起きて俺がいないとなれば驚くはずだ。


 ユニオン設立に合わせ、二人とは連絡アプリで連絡先を交換していた。

 すぐにグループチャットを開き、メッセージを残しておく。

 朝の訓練はだいたい二時間ほど行う。帰りは七時くらいになるだろうことをメッセージで残した。


 まあ、虚獣が積極的に活動するのは夜間だし、昨日の今日で襲われることもないだろう。

 メッセージを送ってから外へと出た俺は、ひんやりとした朝の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。

 うん、いい気分だ。


 今日は、俺が引っ越してきてから初めてのランニングだ。

 春休みに入ってからは引っ越しの準備をしてたし、いざ引っ越して来たと思ったら虚獣に襲われ、春休みのほとんどを潰された。


 結果、未だこの街をゆっくりと見て回れてはいなかったので、改めて見て回ろう。


 なんたって……俺が大好きなゲームの街なんだからな……!

 街路樹が朝露で光り、通りはまだ静か。たまにジョギングしている人や、早朝から散歩をしている老夫婦とすれ違う程度で、道は清々しい空気に包まれている。


 街並みを見て、俺は興奮していた。

 ゲームで見ていた景色とまったく同じ光景が広がっているんだからな。……どれだけ作りこんだゲーム世界ではあったが、それでもやはりリアルの迫力には負けてしまう部分も多い。


 俺は心の中で歓喜しながら、ゲームの様々なシーンを思い出す。ここでは、あの依頼で来ることがあったはずとか、ここでイベントをこなすと隠しキャラが出現するようになるんだよな……とか。


 ゲーム内で発生するイベントと照らし合わせながら街を見て回っていると、気づけばかなり時間も経ってしまっていた。

 ……いけないいけない。今日は入学式でもあるんだし、あんまりランニングばかりもしていられない。


 興奮を少し落ち着かせるよう、俺は空き地へと立ち寄る。

 ……今日の目的はランニング以外にもある。


 自分の持つ、力についての確認だ。

 天使と悪魔と契約することで、俺たちは魔法という力を手に入れることになる。


 ゲームでは、火、水、土、風、氷、雷、光、闇属性があり、主人公はそのすべての属性が使えるという前代未聞の契魂者だったものだ。

 

 ただまあ、それはあくまで主人公の話。普通の契約者は、契約したときに自分に最も適した属性魔法が一つだけ、使えるようになる。


 今の俺も特殊な状況ではあるが、主人公ではない。

 どれかの属性を使えるようになっているだけだろう。

 今日は、その確認だ。これまで、魔力の基礎訓練は魔力をただ垂れ流すだけというものだったが、今日からは実際に魔法を使っての訓練を行っていこうと思っていた。


 ……魔法。

 心躍らない、といえば嘘になる。童心に帰ったかのようにテンションが上がっているのは本当だ。

 そのためにも、まずは自分の使える属性魔法を把握するところから始める。


 俺は目を閉じ、自分の体内の魔力を調べていく。

 ……ゲーム本編で得意な属性の魔力を把握するためのやり方は描写していた。

 各属性には色が振られていて、体内の魔力を意識したときにその色を見ることができればいいというものだ。

 

 俺が目を閉じて体内の魔力を感じ取っていく。

 ……やがて見えてきた色は黄色と青色だ。

 黄色は、雷。青色は水……ではないな、これは濃い色なので恐らくは氷魔法か。

 その結果に……俺は額に手をやった。


 まさかの、二属性持ち。

 主人公に比べたら少ないのだが、現時点では世界初の二属性持ちだ。

 ……ただまあ、セラフとルミナスの二人と契約していることを考えれば、別におかしなことは何もないんだよな。

 一人の契約で一人分の属性魔法を使えるようになったわけだからな。


 俺はただのモブとして生きようとしているというのに、この世界はとことん俺を特別扱いしてくれるようだ。


 とはいえ、せっかくの魔法の力だ。

 俺が前世でどれだけ魔法を使ってみたいと思っていたことか。小さい頃から、いや中学生くらいまでは本気で魔法を使えるようにならないかと訓練してみたものだ。


 ……それが、実現する。

 思わず、生唾を飲みこんでしまう。

 本当に魔法が使えるようになっているのか、そしてどのくらいの威力の魔法が使えるのか。

 一度考え始めたら、試さないという選択肢はなかった。


 魔法の使い方は、だいたい分かっている。

 内に秘めた雷と氷の力を感じてみる。

 体内に魔力を巡らせると、雷の力と氷の冷気が同時に湧き上がってくる感覚があった。


 ゲームでは、スキル名で管理していた魔法だが……ここはリアルだ。

 ある程度、自由に魔法を使えるようだ。

 まずは、雷か。


 右手に魔力を集中。集まってきた魔力を雷へと変化させていく。右手にびりびりとした感覚が集まってきて……すでに俺はテンションが上がっていた。

 ……あとは、それを放出するだけだ。


 ……いけっ!


 片手を近くの地面へと向けた瞬間。

 手のひらから放たれた電撃が、ビリビリと空気を揺らしながら飛び出していく。

 電撃が地面に着弾した瞬間、小さな爆発音が響いた。


「う、おおおおお! ほ、本物だ……! 本物の魔法だぁ……!」


 ゲームでは何度も見慣れたはずの光景だが、今、自分の手から発動したこの電撃に俺は感動していた。

 さらに数発雷魔法を放っていくと、やべぇ……魔力の消費が激しい。

 ……まだ、魔法として魔力を使う行為になれていない。

 もっと練習して、効率よく変換できるようにしないといけないな。


 とりあえず、魔力を使い果たす前に氷魔法も使っておこうか。

 軽く呼吸を整えつつ、今度は冷気を感じながらもう片方の手に魔力を集中させる。


 そして、先ほどと同じように片手を地面に向けた次の瞬間。

 氷の矢が放たれ、地面へと突き刺さる。


 思わず感動の声が漏れる。この雷と氷、両方の属性を俺は扱える。ゲームで憧れていた魔法をこうして自分の手で使えるなんて……やばい、興奮しすぎて気絶しそう……。

 いや、興奮で気絶しそうなんじゃなくて、魔力の使い過ぎで気絶しそう……。


 とりあえず……もっと効率よく魔力変換ができるよう、今後は魔法使用の訓練をしていかないとな。



―――――――――――――――

もしよろしければ、【フォロー】と下の【☆で称える】を押していただき、読み進めて頂ければ嬉しいです。

作者の投稿のモチベーションになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る