第20話
魔法使用による基礎訓練を終えた俺は、自分の魔力の成長を感じながら家へと戻ってきた。
家に入ると、卵だろうか。卵の焼けるいい香りが届いてきた。
リビングへといくと、セラフとルミナスの二人がいた。セラフは食器を並べ、ルミナスがキッチンに立っている。
「滝川さん、おかえりなさい。朝から訓練に行っていたんですね」
「……まあな」
「凄いわね、もうずっとやってるの?」
「魂翼学園に入学するためには、色々鍛えないといけないだろ? だからまあ目指すようになってからは、それが毎日の日課になってるんだ」
「へぇ……凄いじゃない。あっ、今朝はトーストにしちゃうけどいい?」
いつの間にか、俺が引っ越しの際に渡されたトースターが設置されているな。
「別に大丈夫だ。汗だけ流してくるから、先に食べてくれ」
「まだ準備してるし、ゆっくり浴びてきちゃいなさいよ」
そんなやりとりをしながら、俺は浴室へと向かった。
……普段ならば汗を軽く流す程度だったが、一応軽く体も洗っておいた。女子二人がいるからな。
好感度を上げるための行動をするつもりはないが、わざわざ嫌われたいわけでもない。
そんなこんなで汗を流した俺は、服に袖を通してからリビングへと戻る。
四人家族が使えそうなダイニングテーブルに食事が並べられている。このテーブルは、前の家族の残置物だったらしく、そのまま使わせてもらっている。
他にも、ソファなどいくつか残置物があり、前に借りていた人は引っ越しが急に決まったのかもしれない。
俺が席に座ると、先に座っていた二人が両手を合わせる。……あっ、可愛い。昨日も夕食は一緒に食べたのだが、制服姿で食事している二人と一緒にいるとまた特別感が増すな。
テーブルには、目玉焼きとベーコン、トーストが並んでいる。
実家でも何度か見たことのある料理の並びではあったが、いつもより豪華に感じるのは、やっぱりルミナスの手作りだからだろう。
「……うまいな」
「それは、よかったわ」
「あっ、私トーストもう一枚食べますね」
「はいはい。今のうちに焼いておくわね」
セラフの言葉に合わせ、ルミナスがすぐにトースターにパンをセットしていく。
目の前で繰り広げられる二人のやり取りに心の中で感激しながら、俺もパンにかぶりついた。
トーストの香ばしさとベーコンのジューシーさが口いっぱいに広がり、俺はほっと息を吐いた。
朝食を終え準備が整い、いよいよ登校の時間。
俺は制服に袖を通し、玄関へと向かう。
すでに二人とも制服に着替えている。……そして、その姿はとても美しい。
そのまま、制服モデルとして雑誌などに載せられそうなほどだ。本当、こんな二人を間近でじっと見られるなんて、なんたる幸福だ……。
魂翼学園の制服は白と黒の二つがある。天使が白の制服を着て、悪魔が黒を基調としたものを身につけている。
人間の生徒は、白と黒が混ざったような制服だ。何よりもこの制服のデザインで拘っているのは、制服の尻尾や翼の部分だ。
天使、悪魔それぞれの翼や尻尾が出る部分は特殊な素材で作られていて、飛び出すようになっている。
その付け根部分にフェチズムを感じるということで、俺たちはそこにめちゃくちゃ拘って作った。
翼を広げても引っかかることなく、尻尾も自由に動かせるようになっている。
改めてこう間近でみると、興奮するものがある。とはいえ、俺は至って冷静に一言。
ファンタスティック……!
心の中で呟き、再び二人の姿に見惚れていた、
「どうかしました?」
「さっきからこっち見てるけど、何か変なところある?」
セラフとルミナスが不思議そうに首を傾げてくる。さすがに、視線を向けすぎてしまっていた。
俺は誤魔化すように一つ咳払いをしてから、軽く息を吐いた。
「天使や悪魔の制服を見たことがなかったんだけど……しっかり翼とか出るようになってるんだなって思ってな」
「そうですね。私たちからしたら自然なことでしたので、意識したこともありませんね」
「そうね。ほら、あんまりのんびりしてたら遅刻しちゃうし、行くわよ」
ルミナスの言葉に合わせ、俺たちは家を出て行った。
セラフとルミナスが並んで歩き、俺はその後ろをついていくような形になる。
学校へと近づいていくと、段々と学園生と思われる制服姿の人が増えていく。
すれ違う人々の視線は確実に二人に向けられている。……まあ、二人は中等部の時から天使と悪魔のトップクラスだからな。
注目を集めるのも当然か。……だからこそ、二人を前に歩かせ俺は後ろに控えている。これで、俺まで一緒に注目されないようにな。
「セラフさんとルミナスさん…… だ」
「相変わらず……今日も美しいな」
「……そういえば、なんか二人がユニオンを作ったとかどうたら、噂があったけどあれってどうなったんだ?」
「え? マジで!? お、オレ契約してもらえないかな!?」
耳を澄ませばそんな会話が聞こえてくる。ひ、冷や汗が出てきてしまった。
「なんだか、すでに凄い噂になっているようですね」
「まあ別にどうでもいいけど。ね、滝川」
セラフとルミナスがちらとこちらをみるように声をかけてくる。……そんなことをすれば、当然俺にも視線が集まってくることになるわけで――。
「な、なんだあの男?」
「セラフさんとルミナスさんの二人と親しげに話してないか?」
「……そういえば、すでにユニオンと契約している人が一人いるとか何とか……」
「え、まさかあいつが……?」
ひそひそとそんな声が聞こえてくる。セラフやルミナスに向けられていた羨望の眼差しと違い、嫉妬や驚きが入り混じっている。
……これは俺ではなく主人公の役目だったろうに。
俺は本当にモブとしてこの世界を楽しもうと思っているのに……っ。
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