第18話
やはり、ルミナスの好感度はすでに稼げてしまっている。好感度が高い理由としては……彼女は、ユニオンへの拘りが強かったので、特に俺への恩義のようなものを感じてしまっているのかもしれない。
これは、由々しき事態である。
「あたしが、セラフのお世話しているのだって……あたしが、自尊心を満たしたいだけなんだから」
セラフとルミナスは、一、二を争う天使と悪魔と言われるが……キャラクター設定としてはセラフの方が優秀になるようにしている。
それは、今のようにルミナスとセラフの関係を拗らせるためである。
常に、セラフが前にいて、ルミナスは二番手になってしまうようにすることでルミナスが歪んでいくようにするためにな。
開発陣は酷いことするぜ……!
セラフの苦手なことをしてあげることで、ルミナスはその時だけ優越感を覚えるようにしていく。
……まあ、ゲーム本編では主人公との関わりを通して、主人公の一番になるという形で彼女の劣等感などはなくなるようになっている。
ちなみにルミナスのバッドエンドを見たかったらセラフと恋愛関係になることでルミナスの病みエンドが見られる。
これは、野村の「元気で快活な女の子が、裏で色々抱えて病んでいくシーンがオレの栄養になる……!」という発言から作りたいと騒いだ結果だ。
ゴーサインを出したのは俺だけども。
いやだって……ほら、バッドエンドを見てみたい症候群ってあるだろう? 酷い話になると分かっていても、ついついすべてのバッドエンドを回収しちゃうだろ? そんな感じ。
もちろん、それらはハッピーエンドがあってこその話だと俺は思っているので、全てのキャラクターで大満足できるハッピーエンドを書くなら、バッドエンドを自由に書いていいとは命じているが。
「……そうなのか?」
「……そうよ。だから、別にあたしは優しくなんてないわよ」
ルミナスの元気だった表情はなくなり、すっかり落ち込んだ様子を見せる。
……ゲームならば主人公がここから慰めるんだよな。
ゲームと違い、「そうか」、といってこの話を打ち切ってしまえば、話を終えることもできるだろう。
ルミナスの心を助けるのは俺ではなく主人公の役目だ。
し、しかしだ。
落ち込んだルミナスの顔を見ると、そんな非情なことはできない……!
ああ、なんとしてもルミナスを元気づけ、いつものように笑っていてほしい……!
「ルミナスは優しいと思ったけどな」
「……何がよ?」
「虚獣との戦いのときに、俺を助けてくれただろ? かなりまずい状況でも明るくて……俺はそれに助けられたんだよ。契約だって、迷いなくやってくれただろ?」
「……別に。考えなしに行動してただけだよ。……もっと、いい解決手段はあったかもだし」
「結果、全員が助かった。今は結果を大事にしていかないか? ルミナスに足りない部分はもちろんあるかもしれないが、それは俺にだってそうだ。これからは契約したんだし、お互いで助けあっていかないか?」
俺の言葉に、ルミナスは一瞬驚いたように顔を上げ、それから少し照れくさそうに微笑んだ。
「……まったくもう。悪かったわね、情けないこと言っちゃって」
「いや……誰にだって、弱音を吐きたくなるときはあるしな。これからは、ユニオンの仲間として……何かあったら相談してくれ」
「……ふーん。そんなこと言っちゃっていいの? 滅茶苦茶頼っちゃうわよ?」
「……お手柔らかに頼む」
「んじゃあ、また今度何かあったら頼むわね」
ルミナスは照れ隠しのように軽く肩をすくめながら笑った。
うん、とりあえず彼女を慰めることには成功したのだが……やっちまったぁ!
好感度を稼がないようにと考えているのに、また好感度を稼いでしまった。
でも、セラフとルミナスが悲しそうな顔をしているのを見せられると、放っておけないのだ。
くそぉ、俺の前でそういう顔をしないでくれれば俺としても気にしないで済むのに……!
と、とりあえず……これからの俺の目標としては、好感度を一定の数値で維持できるように調整していこう。
セラフとルミナスの二人は、ユニオンの知名度を上げるのが目標だろう。
ただ、俺はそれとは別にもう一つ、目標を作る。
セラフとルミナスとの好感度をある程度で調整し、ゲーム本編が開始するまでに何とかして元の状態に戻す!
最終的な目標は、セラフとルミナスとの関係をゲーム本編が始まる前の状態に戻すこと。
そうしてモブへと戻り、ゲーム本編を一モブとして、ゲームのキャラクターたちのキャッキャウフフな関係を見て楽しむんだ……!
いよいよ、今日から魂翼学園の入学式だ。
俺がこれから通うことになる第一魂翼学園……このゲーム世界における「聖地」だ。
ゲーム本編で何度も通った場所が実際に存在して、しかもそこに自分が足を踏み入れられる。
オタクとしてこれ以上ないくらいの喜びじゃないか!
あの校舎の入り口、廊下、教室……それらを自分の目で見て、実際に歩くことができる。ゲームの画面越しじゃなく、現実として感じられるんだ。聖地巡礼って言葉があるけど、まさか自分がその「聖地」で生活することになるなんてな……!
思わず興奮して、胸が高鳴るのを抑えきれなかった。
だからだろうか。
俺はまだ朝早い時間帯にもかかわらず、目を覚ましてしまっていた。
スマホの時計を確認すれば、午前五時。
……うん、めっちゃ早起き。でもまあ、いいか。
軽く伸びをしてからベッドから立ち上がった俺は、すぐにジャージへと着替えていく。
この世界に転生したと気づいたその日から、俺は毎朝の訓練を日課にしていた。
すべては、魂翼学園に入学するためだ。
魂翼学園への入学試験の条件は、魔力量。それが一定以上に到達していれば、入学できる。
転生した当時の俺はゴミみたいな魔力量しかなかったが、ゲーム知識を活用して毎日訓練していた結果、今はかなり増えていた。
ゲーム知識、といってもそこまで特別なことはない。
このゲームでは、毎朝と毎夜にて基礎訓練を行うパートがある。そこでの訓練次第で、基本ステータスを強化していくことができる。
ジャージに着替えた後は、基礎訓練の効果を引き上げるための装備品である魔力強化の腕輪を身に着け、俺は部屋を出ていった。
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