第15話




 掃除が得意なルミナスのおかげもあり、作業はスムーズに進んでいった。

 セラフはお菓子を食べる回数が明らかに多く、そのたびにルミナスが注意するという、まるで子供のようなやり取りが繰り返される。

 それを見て、俺は一人内心で悶えていくというのが、この家での普通になり始めていた。


 ……尊い。二人を見ているだけで、まるで回復魔法でもかけられたかのように心が軽くなっていく。アロマセラピーというのはこういうものなのかもしれないな。


 そうして、しばらく時間が経つと、山のようにあった段ボールもすっかりと片付いていった。

 玄関には、大量にあった段ボールがまとめられており、これは後で捨てに行かないとだろう。


「ふう、綺麗になったわね」


 額の汗を拭い、満足げな様子のルミナス。

 その隣では、こちらもお気に入りのお菓子を見つけたのか満足そうに口をもごもごしているセラフがいた。


「……二人とも、ありがとな」

「気にするんじゃないわよ。これからは、あたしたちの拠点にもなるんだから」

「……そうだな」


 そうなんだよな……。

 結局、彼女らとユニオンを作るわけで……今後、どうやってモブキャラに戻ろうかと悩んでしまう。

 ひとまずは一緒に活動していき、だんだんとフェードアウトしていくのが理想か?


「とりあえず、これからのユニオンについて考えていかないといけないわね!」

「ユニオンもそうですが、生活に必要なお菓子を買いに行く必要もありますね。お菓子、残り少ないですし」

「散々食ったせいでしょうが! 第一、お菓子より先に用意するべきものがあるでしょうが!」

「ゲームでしょうか?」

「生活必需品を買いに行くのよ!」


 セラフの言葉に、ルミナスが声をあげる。

 ……こんなやり取りはもう何度か行われていたので、俺としてもある程度は耐性がついてきてはいた。


「まあ、色々と話をしていくか。……一応、確認したいんだけど、ユニオンとしての活動って具体的にどんなことがあるんだ?」


 もちろん、俺がユニオンの活動などについて知らないことはないのだが、ゲームとリアルでの違いはあるかもしれないからな。

 俺がそう問いかけると、ルミナスが意気揚々とした表情で口火を切った。


「基本は、虚獣や虚影の討伐、それから魂の回収・浄化作業になるわね。あとは、契魂者たちが自分の能力を高めていくための基礎訓練やダンジョンでのレベルあげとかね」


 虚影というのは、虚獣にまではなっていない存在だ。影のような姿をしていて、言葉を喋るようなこともない。いわゆる雑魚モンスター。

 レベル上げを行う場合、だいたいはこの虚影と戦うものだ。

 ルミナスの話を聞く限りでは、ゲームとそう変わらなそうだな。


 虚獣や虚影は、ゲーム本編でも主要な敵であり、討伐することで報酬や経験値が得られるので狩りまくっていたものだ。


「後は、新人発掘ね。新人発掘は、あたしたちの力がまだ弱いからスカウトとかしても意味ないけどね。でも、力がつけばいずれは可能になるかもしれないわね」


 新人発掘で増える仲間もかなりの数がいて、各キャラクターごとにいくつかのえっちシーンもあったので、それをコンプリートするというのも一つの楽しみだった。


 新人発掘で見つかるキャラクターは……かなりの数がいる。条件を満たさないと出現しないキャラクターも多くいて、そのすべてをコンプリートするだけでもかなりの時間がかかる。

 100を超えるキャラクターがいるため、お気に入りのキャラやシチュエーションの一つくらいは、見つかるはずだ。


 ゲームでは、主人公のレベルが上がるごとに契約していたセラフかルミナスも強化されていく。

 契約できる数が増え、最終的には制限なく契約できる最強の上級天使、悪魔になっていたが……まあそれは今は関係ない。


 俺の今後、か。


 俺としては、会いたいキャラクターはもちろんいるが、あくまでモブ。

 これ以上、大きく本編に出しゃばるつもりはない。ほどよくレベル上げをして、ほどよく二人と関係を作りつつも、ゲーム本編が始まる頃にはフェードアウト……くらいの関係にしたいんだよなぁ。


「なら、俺のやることとしては……虚影狩りとかの仕事をしていけばいいんだよな?」

「ええ、そうね。その辺りは大手ユニオンの依頼を探せば、いくらでもあると思うわよ」


 大手ユニオンは、やはり多くの依頼が集まるためそのすべてを捌ききれるわけではない。

 ゲーム序盤では大手ユニオンが処理し切れない仕事を下請けのように処理していき、知名度を稼いでいくことになる。

 セラフ&ルミナスユニオンが成長していけば、直接依頼されることもあると思うが……まあ今の段階では難しい。


「とりあえずは、春休みももう終わりだし、細かいことはまた学校が始まってからでよろしいのではないでしょうか?」

「そういえばそうね。まったくもう、せっかくの春休みがもう終わっちゃうなんて。短すぎるわよね。でもまあ……最高の経験ができたし、いっか!」

「……そう、ですね」


 セラフとルミナスはちらとこちらを見てから、嬉しそうに目元を緩めた。……ユニオンを持つのが夢である二人からしたら、そりゃあ最高の状況だろうな。

 ……まずいまずい。

 何がまずいって二人の好感度である。何か、二人の表情が好感度50%くらいに見せるような表情になっている。


 それはいかん! 俺はゲーム本編を一モブとして楽しみたいだけだ。……今後、そちらへの対策もしなければならないが、他にもあるんだよな。


 ……学校、だ。

 ゲーム本編を楽しむためという理由で第一魂翼学園に決めたのだが……まさか、こんなことになるなんてなぁ。

 やっちまったよな、ほんと。



―――――――――――――――

もしよろしければ、【フォロー】と下の【☆で称える】を押していただき、読み進めて頂ければ嬉しいです。

作者の投稿のモチベーションになりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る