第14話

「うわっ……想像以上ね」

「引っ越し、というともしかして……この春から天魔都市で生活をするのですか?」

「……まあな。第一魂翼学園に合格したんでな」

「え? そうなの!? あたしたちも中等部からの進学なのよ」

「……へぇ、そうなんだな」


 もちろん知ってますとも。偶然の自体に驚くような素振りを見せながら、俺は二人をリビングへ案内するために段ボールを避けるようにしながら廊下を進んだ。

 足元には雑然とした箱が所狭しと並んでいて、慎重に歩かないとつまずいてしまいそうだ。


 リビングに足を踏み入れると、そこも段ボールだらけ。少なくとも、住むには支障がないようにと最低限の家具だけは片付けたが、まだ生活感が全くない状態だ。


「ここがリビングなんだが……悪いな、全然片付けられてなくてさ」

「そうね。とりあえず……今日はまだ一日時間もあるんだし、この部屋を片付けていきましょうか」


 ルミナスが腕をまくり、やる気を見せていく。……ルミナスは、家事全般が得意だからな。掃除とか片づけとか、そういうのが趣味の一つなんだよな。


「そうですね。ひとまず、段ボールのものを出して、生活に足りていない物は購入しに行かないとですよね」


 セラフはこういった作業は得意ではないので、どこまで本気かは疑問が残る状況だ。

 とはいえ、俺としては推しの二人に雑務を任せたくはない。


「……いやいや、二人はお客さんみたいなもんなんだからさすがにそれをやらせるわけには――」

「これからは同じユニオンの仲間で、ここが拠点になるのよ? 水臭いこと言うんじゃないわよ」

「そうですよ。ほら、始めましょう」


 二人はさっさと段ボールを片付け始めていく。

 ルミナスはすぐに箱を開けると、中から出てきたものを丁寧に仕分け、テキパキと片付けを始めていく。

 一方、セラフはというと、開けた段ボールの中からお菓子が出てきて、興味深そうにそれを眺めている。


 ……そういえば、セラフはお菓子好きだったな。

 セラフは賞味期限を確認した後、悩む素振りもなく袋を開け放った。


「ちょっとセラフ! あんた何やってるのよ!」

「いえ、掃除しようかと思いまして」

「食べてなくすんじゃないわよ!」


 すかさずルミナスがツッコミを入れ、お菓子を取り上げる。

 セラフはむうっと頬を膨らませている。ルミナスのツッコミ、セラフの可愛らしいリアクション……。

 まるでコントみたいに軽快にやり取りしてる二人が、俺の目の前にいるっていうこの奇跡……。


 ――尊い。


 俺の脳内では、カメラが高速でシャッターを切るように「セラフが頬を膨らませる瞬間」、「ルミナスがツッコミを入れる姿」がフレームに収められていく。

 脳内の壁紙はこの二人で確定だ。このやり取りを間近で見られる幸せに、心臓がもう限界だ。


 こんな尊い日常が、現実に俺の目の前で展開されるなんて……。しかも、それが今だけではなくこれから一緒に生活を送っている間はずっとそうなのだ。

 ……エロゲー内のヒロインがこんな自然な会話をしてくれるなんて、最高すぎる。

 しかも、それが俺の家の中で。


 お菓子一つでこんなに萌えさせてくれるなんて、尊すぎて呼吸が、息ができなくなりそう……!


 ルミナスがツッコミを入れるたびに、俺の中のオタク魂が歓喜の声を上げる。セラフがあんなに可愛らしく頬を膨らませる瞬間を、こうして目の前で見られるだなんて。これ、人生のピークかも。


 ここでの生活は、俺の高血圧に間違いなく関係してくるだろう。

 ……でも、見たい。尊すぎて、どうしていいかわからないが、この一瞬を全力で目に焼き付けておこう。


 ……俺も、大きなゴミ袋を持ってきて、二人の手伝いを始めていく。


「滝川さん、食べますか?」


 差し出されたスナック菓子と小首を傾げる姿のセラフに、俺は再び悶えた。


「……ああ、食べる。ルミナスも、そんなに気張らず、のんびりやっていかないか?」

「……まったくもう。いい、滝川? セラフは、甘やかすとどこまでもだらけるのよ?」

「そんなことありませんよ?」


 でも、セラフがだらけている姿は可愛いので、どこまでいけるのか試してみたい気持ちもある。

 そんな言葉をかわしながら、俺たちは作業を進めていった。


―――――――――――――――

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