第13話


「なあ、滝川はどうするよ? どっちがいいんだ?」

「滝川君? どっちがいいかな?」


 ……なんて状況だ。あのミカエルとルシファーの二人に、こうして期待されるように提案されるなんて。

 ミカエル様のお胸に心惹かれるものはあるが、ルシファー様の黒タイツに頬擦りしたい気持ちもある。

 今の俺は世界で一番幸福な状況なのかもしれないと思い、この場面を脳内で録画撮影しつつも、冷静に状況を考える。

 ……どちらかの陣営に所属するのは、ゲーム本編では当たり前だ。

 そもそも、ゲーム開始時点で契約する天使か悪魔を選ぶんだからな。


 選んだ陣営側のえっちシーンのみ、回収可能だし、会話イベントや固定イベントなどは選んだ陣営側のものが増えてしまう。

 別に、俺がゲーム本編のイベントを回収できるとは思っていないし、するつもりもない。

 それは主人公の役目だ。

 俺はただのモブなので、どちらの陣営とも深くかかわっていくつもりはない。

 だから俺は……今の俺の立場を最大限利用させてもらう。


「とりあえず、中立の立場で活動していくことは、できるんですか?」


 俺は、天使と悪魔の両方と契約をしている。どちらか片側に深く突っ込むこと自体が、あまりよくないだろう。

 だからこその提案なのだが、ミカエルとルシファーは顔を見合わせる。


「確かに……ルミナスのことを考えたら、天使陣営に入れたらそれはそれで居心地悪いよね」

「まあ……セラフの方もそうだろうな。……そうだな。二人のことも考えて、あくまで中立的な立場にしておくか」


 ……問題、ないようだな。


「そんじゃ、細かい書類に関してはこっちで処理しておくぜ。これから、ユニオンとして、活動よろしくな」

「ユニオン名はどうするのかな? セラフとルミナスで、セラフ&ルミナスユニオンとか?」


 ユニオン名自体は自由につけられるんだよな。

 ゲーム本編では主人公の所属するユニオン名を自分で考えていたのだが、デフォルトでは天使や悪魔の名前+ユニオンだ。

 ミカエルやルシファーたちがそのままにしているので、深く考えなければそれでいいのかもしれないがルミナスが首を横に振った。


「い、いや……あたしの名前を前にしたいです!」

「それは、私としても譲れませんね」

「むっ、だったらジャンケンで決めるわよ!」


 それまで、少し静かになっていたセラフだったが、ユニオン名に関しては譲れないようだ。

 二人はお互い向き合い、グーの拳を突き出す。

 あっ、可愛い……。


 そして――ジャンケンの結果、セラフ&ルミナスユニオンになり、ルミナスががっくりと肩を落としていた。





 ミカエルユニオンでの話しあいを終えた俺は、セラフ、ルミナスとともに歩いていた。

 目指すは我が家である。セラフとルミナスも、俺の家を目指している。

 というのも、二人はミカエルユニオン、ルシファーユニオンが使っている寮で生活をしていた。


 ……そして、二人は一応ユニオンを設立したわけであり、ユニオンを持っている二人が寮生活をしているというのもというわけで、新しい住居が見つかるまでは俺の家で暮らすということになった。


 それでいいのかよ、とか色々思ったのだが、元々エロゲーだからか、二人はそこまで気にした様子はなさそうにみえる。

 美少女二人との同居生活自体は構わないのだが、それがセラフ、ルミナスの二人であることは大問題だ。


 モブであるはずの俺が、どんどん彼女らの関わりが増えてしまっている……!

 モブキャラと名乗るにはおこがましいような状況になってしまっていて、これはどうにか方向転換しないといけないかもしれない。


 俺がモブでなければ喜ぶんだけどなぁ。

 もちろん、これほどの美少女二人と一緒にいられるというのに、反対意見があるような奴はもはやそいつは男じゃない。きっと去勢されているだろう。

 むしろ俺は去勢してほしいくらいには、心の昂りが抑え切れないが、ひた隠しで歩いていく。


「着いたぞ」


 しばらく歩き、俺は両親の親戚が持っているというアパートに来ていた。

 ここは家族が暮らす用のアパートで、一部屋あたりかなりのサイズだ。

 俺一人では有り余るほどに大きな3LDKのここは、セラフとルミナスを入れてもまだ余裕があると思う。

 一年程前からこの地域での虚獣の目撃情報が増えて以降、入居者が中々出てくれないということで親戚であることも手伝い格安で借りることができた。


「ここが……滝川さんの家なんですね」

「まだ引っ越したばかりで、段ボールが多いからな。片付いてない部分は勘弁してくれ」


 そう言いながら扉を開けると、玄関には引っ越しの際に放り出したままの段ボールがいくつも積み重なっている。

 ……この街を見て回りたくて、とりあえず荷物を運びこんだだけの状態だ。

 狭い廊下には通路をふさぐかのように無造作に置かれた箱があちこちにある。



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