第16話

 つーか、俺って……絶対注目されるよな……。

 そもそも、第一魂翼学園は初等部、中等部、高等部とある。校舎はそれぞれ別々にあるのだが、基本的には初等部から進級していく生徒が多い。

 契魂者としての訓練などについていけなくなった生徒、あるいは能力が足りていないと考えられる生徒たちは進級ができないため……つまりまあ高等部に残っているのはえりすぐりのエリートたちになる。


 俺の場合は、ゲーム知識があったので中学三年の夏から鍛えてどうにか合格できたのだが、そもそも、外部からの合格者自体が極めて少ない。

 元々、優秀な生徒として注目されるはずだったのに、それでいてセラフ、ルミナスという次期上級の候補者二名と契約を結んでしまった……。


 うん、注目されない理由がない。完全に主人公ムーブをしてしまっているどころか、主人公をモブにする勢いの注目度だ。


 ……初日は、仕方ない。しかしだ、次からは注目されないように今後は地味にしていかなければならない。

 例えば、ユニオンとしての依頼を失敗してみる……とか。


 い、いやだがもしもそんなことをしたら……セラフとルミナスの評価を落としてしまうことになる……!

 ゲーム本編開始時点で、セラフとルミナスの二人は最高の天使&悪魔でなければいけないんだ! そこは、このゲームの開発者の一人として譲れん!


 そんな凄い天使か悪魔と契約できる主人公は何者だ……!? となるようにするのが、ゲーム本編では大事なんだからな。

 この特別感をいかに短時間で出せるか皆で話し合ったものだ。


「とりあえず、あたしたちのユニオンの公式サイトも作らないとね! そっちはどうしよう? 誰か外部の人とかにお願いする?」


 ……公式サイト作りか。

 ここも、無駄に力を入れて作ったものだ。実際に、ホームページ制作用のプログラミング言語を使い、自分のオリジナルのものを作れるようにしていた。

 ……ただまあ、全員が全員作れるわけではないので、汎用的に作れるものも用意はしていたが。


「私がやります。これでも、ネット関係は任せてください」


 ……セラフは得意だよな。彼女はかなりのインドア派であり、放っておけば一日中パソコンかスマホを弄っているからな。


「そういえばセラフはそういうの得意だったわね。任せるわよ!」

「はい。滝川さんも、気になることがあれば言ってくださいね。要求通りに作れると思いますから」

「……了解だ」


 セラフと契約した場合は、セラフが自動である程度作ってくれるんだよな。……まあ、ルミナスと契約した場合も、ルミナスがセラフにお願いして自動である程度のものは作ってくれるんだけど。

 実際の二人のやり取りに関しては、ゲーム本編にはないのだが……まあ、こんな感じで話をしているんだろうな、というのは開発側も想定していたのだが……やはり、ゲームとリアルの違いが体感できた。


「あとは、ユニオンはこんな感じでいいとして……二人に一番の問題について話しておくわね」

「なんだ?」

「なんでしょうか?」


 ルミナスの問いかけに俺たちが首を傾げると、彼女は真剣な眼差しで口を開いた。


「この家での共同生活についてよ。家事の分担とかしないといけないわよね?」


 ……家事、か。

 実を言うと、俺はあまり……一人暮らしは得意ではない。抜群に料理ができるわけではないし、掃除が得意なわけでもない。


 ルミナスの言葉に、俺はさっと視線をそらす。そらした先でセラフと視線がぶつかりあう。

 ……まあ、彼女も私生活は酷いからな。

 彼女の部屋は放っておくとすぐに汚れるため、ルミナスが定期的に掃除をしにいく、という設定がある。


 怠惰な天使様なのだ。そこが可愛いんだけど!


「……そうだな。どうする?」

「まずは料理の担当ね。毎日別々にする? それとも誰かが担当しちゃう? そういえば、滝川とセラフって料理はどうなのよ? ……いや、セラフに聞いたあたしが馬鹿だったわね」

「何ですかぁ。私だって……ちょっとはできますよ?」

「じゃあ、何ができるのよ」

「カップ麺を、少々嗜んでます」

「それっぽい言い方してんじゃないわよ! 滝川は!?」

「……惣菜を買うのは得意だぞ」

「料理してない! まったくもう! あんたたちは一人暮らしをしていくっていう自覚はないの!?」

「ない」「ありません」

「堂々と言うな!」


 ガルル、とルミナスが八重歯を見せるように睨んでくる。セラフが、申し訳なさそうに視線を下げた。


「私は……食べる専門ですので、申し訳ありません」

「分かったわよ! 料理はあたしが担当するわね! 掃除とか洗濯はどうなのよ!?」

「掃除は実家で使ってた古いロボット掃除機があるから任せろ。洗濯も、買い替えるっていうんで中古のドラム式洗濯乾燥機を実家からもらってきた」


 洗濯機に関しては四人家族で使っていたのでそれなりのサイズだ。

 俺はぐっと親指を立てておいた。


「あんた何もしてないわよ! まったく……でもまあそんだけ家電があれば、最低限はそれでいいわね……うん。じゃあまあ基本細かいことはあたしがやるわね。だから、ユニオンの細かい仕事は任せるわよ!」

「……助かるよ、ルミナス」

「あっ、私ピーマン嫌いですから出さないでくださいね」

「好き嫌いするんじゃないの!」


 ……ルミナスママは厳しそうだな。


「それじゃ、食材が必要だから、スーパーに行ってくるわ! 二人は、ここで待ってなさいよ!」

「あっ、俺も荷物持ちくらいは――」


 言いかけたところで、ルミナスはすでに楽しそうにリビングを飛び出していった。


「元気な奴だな……」

「昔からあんな感じですね」

「やっぱり二人は初等部から一緒なのか?」


 ゲームの製作者としてもちろん設定に関してはすべて網羅しているし、ゲーム本編では公開していなかった裏設定とかも把握している。

 とはいえ、彼女らと自然な会話をするためにもその情報を聞いておく必要はある。


 いわゆる、フラグを立てる、というものだ。一度聞いておかないといけないからな。

 彼女らのスリーサイズや、体はどこから洗うかなどの細かい設定は知っているが、いきなり話し出したらただの変態だからな。


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