第11話
「それは本当なのかな?」
ミカエルは優しい声音とともに、問いかけてくる。
それまでと変わらない口調にも感じるのだが、ゲームで何度も聞いていた穏やかな声とは違い、やはりどこかピンと糸が張ったような固さがある。
……俺は、この世界がゲームの世界であることまでは伝えるつもりはない。
前世が、あくまで「似たような世界」だということを伝えるだけだ。
真実と嘘を織り交ぜることによって、俺はこの話の全てを真実として偽るつもりだ。
「はい。……俺の前世の世界も、似たような感じだったので……どうして転生したのか混乱はありましたが……これまでは、普通に生活してきました」
「そうだったんだね。でも、それがどうしてセラフの契約とかの話になってくるのかな?」
「……俺の前世では、例えば下級天使などでも、特定の条件下であれば契約が可能でした」
「特定の条件下?」
「はい。……それは感情の高ぶりです。例えば、危機的状況で本来の力以上の力を発揮できる人間がいますよね? 天使や悪魔も同じで……恐らくですが、セラフとルミナスの二人も一時的に能力が向上し、本来契約に至る力を持たなくても契約が結べたんじゃないかと思います。もちろん、二人の力が上級に限りなく近いものがあったのも関係していると思いますが」
……ゲームでは、HPが減ってくると各キャラクターごとに設定された特殊技を放つことができた。
ミカエルとルシファーは興味深そうな様子でこちらをみてくるが、未だ張り詰めた空気は残っている。
ミカエルとルシファーは、互いに視線を交わす。
「……人間が危機的な状況で魔力が強化される現象は、確かにあるよね」
ミカエルが静かに言葉を漏らす。……どうやら、ゲームの設定と同じようなことはこの現実でも起きているようだな。
「天使や悪魔でも、そういうことがありえるってわけか……確かに、そんな状況で契約をしたことなんてなかったよな」
ルシファーもそれに続くように頷いていくと、ミカエルの視線が俺へと戻ってきた。
「もしかして、二人と同時に契約できたことについても何か分かるのかな?」
「それは……あくまで予想になりますけどいいですか?」
「うん、構わないよ。教えてほしいな?」
ミカエルが笑顔とともに首を可愛らしく傾げる。
みゃ……っ! 可愛すぎる……。間近でみると、より胸のつまり具合に驚かされる。
ゲーム本編でよく見ていた姿勢で、心癒されるものはあったが、俺は表情は引き締めたままその表情を舐めまわすように堪能する。
それから……俺は小さく息を吐いてから、ゆっくりと口を開いた。
「天使や悪魔との契約は、魂の契約になりますよね?」
「うん。そうだよ。だから、一度契約をしたら死ぬまでその契約は続いていくんだよね」
「……だから、俺は二人と契約できたんじゃないかとも思っているんです」
「どういうこと?」
「前世の俺と、今世の俺。前世を自覚できた俺は、二つ分の魂があるんじゃないかって。……前世では、そういう人はいませんでしたが……そういう可能性はある、と考えられたことがあったんです」
あくまで、これは……裏設定に関わる部分だ。
ミカエルとルシファーは再び視線を交わして考えるように顎に手をやる。
「確かに……それはあるのかな?」
「話の筋自体は通ってんだよな……転生者なんてこれまでいなかったから、検証のしようはねぇしなぁ」
二人はそれから一言二言、俺には聞こえない様子で話をした後ルシファーがこちらを見てきた。
「滝川。転生者ってのはあんまり大っぴらには話さないほうがいいな」
「……そうですか?」
……俺だって、セラフとルミナスが危険にさらされていなければ、話すつもりは全くなかったっての。
ミカエルとルシファーが怖いことを言うものだから、俺が犠牲になる覚悟で話したに過ぎない。
すべては二人が悪い。でも、可愛いから許しちゃう。
「まあな。普通、こんな話まともに信じられるはずがねぇからな。……ひとまず、どうすっかミカエル? 悠真の扱い難しくないか?」
「そうだねぇ……滝川君は、これから何かしようと思っていることはあるのかな?」
これから、か。
……転生したと思ったら、モブキャラで、おまけにいきなり死にかけて……会う予定のなかった原作キャラクターたちに会いまくっちゃって。
おまけに、物語本編を大きく歪ますような契約までしちゃって……。
そんな俺がやりたいことは……平穏無事に、ゲーム本編の物語をモブキャラとして楽しむこと。
……これから、どうやって方向修正をしていくかはこれから考えるとして、ひとまず俺がやらなければいけないことは、俺というイレギュラーによって、セラフとルミナスに被害が出ないようにすることだ。
なし崩し的にとはいえ、俺と契約を果たしたということはセラフとルミナスを狙うような虚獣も出てくるかもしれない。
ゲーム本編が始まるまで、セラフとルミナスを守るのが、今の俺の役目だ。
「……強くなりたいです。今日みたいに、セラフとルミナスを危険に晒すようなことはしたくないと思います」
「「……」」
セラフとルミナスの顔をじっと見ながらそう言うと、彼女らは頬をかくようにして視線を外していた。
ミカエルとルシファーは、少し厳しい視線とともに俺を睨んできた。
……ああ! 二人から同時に睨まれるなんて、ゲーム本編でも体験できなかったことを経験でき、俺は天にも昇る気持ちだった。
脳内ではそんなことを考えながらも、真剣な表情で二人を見ていると、やがてルシファーがにやりと笑った。
「……そうか。その考え、気に入ったぜ」
ルシファーがソファから立ち上がり、俺の方に歩み寄ってくる。
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