第10話


 まず、下級なのに契約ができたことについては簡単だ。

 セラフとルミナスが下級の中でも上級に近しい能力があり、そこにさらに俺が彼女らの感情を高ぶらせたことで、一時的に上級に匹敵する力を手に入れたからだ。

 そしてもう一つ。

 俺が二人同時に契約できたことについては、もうこれは完全に裏設定も裏設定。

 俺が転生者であり、二つの魂を持っているからだろう。

 

 ……それをミカエルとルシファーに話したところで、じゃあ今度はどうしてそんなこと知っているんだ、という話になるわけだ。


「いや……あんまり自分も状況が分かっていないといいますか……」


 とりあえず、笑って誤魔化しておくと、ルシファーは「だよなぁ」と豪快に笑いながら続ける。


「もしかしたら、ルミナスや滝川の体を解剖してみたら何か分かるかもな? なあ、どうだミカエル?」


 何言ってんの!

 ……ルシファーはこういうキャラでもある。敵対する……というわけではないが、容赦がない時もある。

 実際敵対する存在を捕らえ、拷問などはよくしているとか何とか。


 それが、ルシファーのキャラ設定を担当した藤井の性癖だったんだから仕方ない。

 あいつめ、余計なことを……。

 俺も、「いいね!」ってゴーサインを出したのだが、藤井のせいにさせてもらおう。


「そうだねぇ。三人を調べたら、何か分かるかもだし、ありっちゃありかも……?」


 ミカエルは本気で考え込むようにしている。

 この人はこの人で、身内には優しいがそれ以外には非常に冷たい。

 笑顔で簡単に切り捨てられるような人でもある。

 「そのギャップがいいのよ!」と赤崎が鼻息荒く叫んでいたのは、今もよく覚えている。


 ミカエルとルシファーの言葉に、ぶるりとセラフとルミナスが体を震わせていく。


「そもそも、勝手に契魂者を作ることはダメなんだよねぇ」

「そうなんだよな。上級天使と上級悪魔はきちんと申請しねぇと契魂者を増やしちゃダメなんだし、その処分についても色々考えないといけないわけだしなぁ」


 は、話がどんどん最悪な方へと進んでいっている!


「ただ、問題なのが上級に関して、のみしか私たちのユニオン規則には書かれていないんだよねぇ」

「悪魔の方もだっての。ったく、イレギュラーもイレギュラーでどうすりゃいいんだって感じなんだよなぁ」


 セラフとルミナスにダメもとで契約できないかを頼んだのは俺だ。

 ど、どうする?

 ミカエルとルシファーが真剣に処分の方向で話しを始めてしまっている。


 ……俺のことはどうでもいい!

 だが、セラフとルミナスに何かあってはいけない。


 俺の隠していることを打ち明ければ、二人の処分はなくなるかもしれない。

 ……この状況で、隠し事を続けるのは得策ではない、か。


 セラフとルミナスの二人に、これ以上ゲーム本編ではなかったような展開を経験させたくはない。

 物語に歪みを出さないためにも……俺は少し考えるような素振りを見せた後、二人に話しかける。


「……あの、もしかしたら二人と契約できたことについては……実はもしかしたら一つだけ、心当たりがあります」

「え? なんだよ?」


 二人の視線が一気に俺に集中する。少しの迷いはあったけど……俺は深く息を吸い込み、意を決して言葉を続けた。


「俺は……転生者なんです。別の世界から来た人間で、気づいたら滝川悠真になっていたんです」


 一瞬の静寂が流れた後、ルシファーが驚いた表情を浮かべた。それは、ミカエルも同じだ。


「て、転生者……?」

「はい。似たような世界で生きていたんですが……俺は別の人間として過ごしていた記憶があるんです。そして、この世界で滝川悠真として目覚めました。……もしかしたら、それで例えば魂が二つあるから、こうして二人と契約できたんじゃない、かなぁ……って」


 これで、どうなるかは分からないが……少なくとも、セラフとルミナスが不当に扱われることはないだろう。

 俺の扱い? それはどうでもいい。

 今は、二人が助かってくれるなら、何でもいい。

 そのためなら、ルシファーの足だって舐めるつもりだ。むしろ、望むところである。


 転生者であることを打ち明けた瞬間から、部屋の中の空気が変化した。

 それまで、表情一つ変えずに俺たちの動きを監視するようにみていた護衛の人たちも、どこか驚いた様子であった。


 特に顕著なのが、それまで穏やかだったミカエルだ。

 ぴくりと眉尻が上がり、柔和な笑みが少し固くなる。

 ルシファーの瞳は鋭さを増していく。


「……転生者、ねぇ」


 ルシファーが考えるように低く呟き、ミカエルに視線を送る。

 二人の間で何かしらの意図が交錯しているように見えたが、俺にはそれが何なのか分からない。ただ、彼女たちが俺の言葉を慎重に受け止めているのは確かだった。




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