第2話


「な、なんで……!?」


 空から二人の女性が真っ逆さまに落ちてきた。

 光と闇――パンティーではなく、セラフとルミナス。天使と悪魔である彼女たちが、俺の方へと落下してくる。

 それぞれが翼を持っているが、この世界の天使や悪魔の翼は劣化していて飛行能力はない。精々、夜のプレイに使う程度。


 や、やばい! このままだと二人が怪我をしてしまう! メインヒロインである彼女たちに怪我なんて絶対に許されない。

 そう思った瞬間、体が勝手に動いていた。セラフとルミナスを抱き止めようと、俺は両手を広げ――。


「ぐふっ!」


 案の定、俺の体は勢いよく地面に叩きつけられた。

 二人の重さが俺の胸と背中にドスンと響く。


「だ、大丈夫ですか?」

「あ、あんた大丈夫!?」


 セラフとルミナスの声が頭上に響く。

 俺の好きな声優に声を当ててもらったので、聞き間違えることはない。

 そして痛みは確かにあったのだが、俺の心は――歓喜していた。


 目の前に広がるのは、推しキャラたちの美しい姿!

 セラフの金色の髪が俺の顔にふわっとかかり、ルミナスの細身ながらも柔らかな体が俺の胸に押し付けられている。

 大好きだったキャラに潰されて痛いなんてことがあるだろうか。いや、あるわけがない!


 自分の推しキャラが、今俺の上に――俺に接触してるなんて……ああ、最高だぁ。

 これぞ転生の真髄ではないだろうか。


 俺のオタク人生が、ここに結実した瞬間でもある。

 気絶しそうになるほどの幸福感が全身を包み込み、俺は推しキャラの温かさに酔いしれていた。


 心配そうに顔を覗き込んできたのは、悪魔のような翼をもつメインヒロインの一人であるルミナス。

 短めのダークパープルの髪をしていて、前髪は長めで、右目を完全に隠すように垂れている。白のパンティーを持つ。

 見える左目は深紅色に微かに輝いている。少し不機嫌そうにも見えるつり目がちな表情ではあるが、彼女の可愛らしさを損なうことはない。


 ゴスロリ風ドレスを身に纏った彼女はフリルやレースが施されたデザインが、幼さと可愛らしさを際立たせている。

 首には黒いレースのチョーカーを着け、その中央で小さな赤い宝石が静かに光を放っている。


 背中には小さな黒紫色の翼が心配そうに揺れている。

 目の前には、俺が大好きだった――いや、今も大好きなルミナスの姿。

 その事実を一気に受け入れられず、頭がくらくらして意識が吹き飛びかけた。

 やばい、これは……尊すぎる……!

 内心で叫びそうになる自分を何とか抑え込み、変人と思われないように俺は深呼吸をする。


 ――そしたら、だ。

 ……うぎゅっ!


 吸い込んだ空気の中に、ふわりと広がる甘い香りが鼻をくすぐった。ルミナスの匂いだ。

 まるで、甘いお菓子のような、癖になる香り……ゲームの中でも、彼女の部屋に訪れたシーンで描かれていた、俺が大好きだった香り。

 ル、ルミナスの……匂い……!


 胸がぎゅっと締め付けられ、再び意識がふわっと遠のきかける。鼻から入ってきた香りが、俺の理性を限界まで揺さぶってきゅる!

 心臓がバクバクと暴れ出し、体が熱くなる。これは、嗅覚を通して直接脳を揺さぶる誘惑だ……意識が飛びかける。


 落ち着け、落ち着くんだ俺……!

 まずは、彼女に、俺が無事であることを伝えなければならない。


「……大丈夫だ。二人とも、怪我は……ないか」


 自分でも驚くほどに渋い声が響いていた。内心の動揺を二人に悟られないよう、かっこつけたからだ。

 ルミナスとセラフが顔を見合わせる。

 セラフも目がつぶれるほどの輝きを放った、美少女だ。

 セラフは……腰まで届く陽の光をそのまま纏ったようなプラチナブロンドの髪を揺らしている。その髪は、まるで絹のように滑らかでふんわりと揺れている。黒のパンティーは彼女のものだ。


 透き通るように白く、どこか儚げな印象を与える肌は、彼女の存在を神聖なものに感じさせる。

 目鼻立ちは愛らしく、淡いブルーの瞳は澄み渡る青空のように清らかだ。常に微笑を絶やさないのが、セラフというキャラクターだ。

 細く華奢な体つきでありながら、胸元はとても大きく、思わずそこに視線が集中しそうになる。


 ……二人は天使、悪魔という種族で、この世界では、人間と共存した存在だ。


「はい、あなたが助けてくれたおかげで……何とか」

「それなら、良かった。それより二人は――」


 どうしてこんなところにいるんだ?

 まさに、ゲーム本編のように空から降ってきた二人の理由について考えていると、


「見ぃつけたぁ……っ」


 その声は、まるで地の底から湧き上がるような不気味さを帯びていた。

 背筋をひやりと撫でるような冷たさが、瞬時に空気を凍りつかせる。

 振り返ると、そこに立っていたのは異形の存在――この世界の魔物と同義である、虚獣(きょじゅう)という怪物がそこにいた。


 ……ゲーム的には魔物、モンスターとして扱われている存在だ。


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