エロゲー世界のただのモブに転生した俺に、ヒロインたちが押し寄せてきます

木嶋隆太

第1話


 中学三年の夏。

 じりじりとした日差しが窓ガラス越しに差し込み、外の暑さが視覚的に感じられる。

 夏を伝えるように蝉の鳴き声が響く教室に俺はいた。

 志望校を決めるための二者面談を行うために待機していた教室で。

 俺は、唐突に思い出した。


 この世界が、俺が自分で作った『ファントム・エクリプス』というエロゲーの世界であることを。

 そして俺が――物語とは何も関係のない一般モブであることを。


 だから俺は、先生に言ってやったんだ。


「おっぱい」

「え?」

「俺は、ミカエル様のおっぱいを見るために第一魂翼学園に行きます!」


 ゲーム本編に登場する俺の好きなキャラクターの一人であるその名前を口にすると、担任は明らかに驚いていた。


「え!? い、いきなりなんで!? あそこって、モンスターとかを倒す人が行く場所でしょ!? なんで!?」

「推しキャラたちが魂翼学園に通うからに決まってるでしょうが!」

「はいい!?」


 今だから思う。

 あの時の俺は、少しだけ頭がおかしく見えていたはずだ。



 それから半年。

 家族からは俺の夢を応援すると言ってもらい受験させてもらった。

 もちろん、ミカエル様のおっぱいが見たいなんて言っていない。

 憧れの人に会いたいという前向きな理由だ。嘘は言ってないだろう。


 ミカエル様のお胸が見たいのとは別に、ゲームの物語を間近で見たいという夢もある。

 モブなので、あくまで遠くから見守る程度に留めるつもりだ。そもそも、ゲーム本編に関わっていたら命がいくつあっても足りんしな。


 そんなこんなで、ミカエル様のお胸を原動力に頑張った結果、無事ゲーム本編の舞台である魂翼学園に合格できた。


 これからは一人暮らしになるので、現在。春休みを利用して学園がある第一天魔都市への引っ越しを行っていた。

 その引っ越し作業を終えた俺は昂る気持ちが抑え切れず……夜の天魔都市へと繰り出した。

 ドアを開け、一歩外へと出た俺は、全身でその空気を感じとっていた。


「おお……! ここが、天魔都市の学園区か……!」


 ここに来るまで、バスや電車などを乗り継いできたので多少は景色を見ていた。

 だが俺は、この新鮮さを味わうため、道中はなるべく周りを見ないようにしてきた。

 すべては、聖地巡礼を楽しむために!


「うわあああ! ゲームの街そのものじゃねぇか! マジで転生したんだな……!」


 『ファントム・エクリプス』。

 PCで発売した、R18指定のゲームだ。

 自慢じゃないが、そのクオリティは尋常ではない。

 俺が宝くじであてた金を注ぎ込み、どう考えても採算はとれないような無駄に金がかかった俺好みの最高のエロゲ―。


 自慢できるところはたくさんある。


 何が凄いって、まずマップの作り込みが半端じゃない。

 広大なフィールドに、緻密に描かれた建物や風景。

 3Dグラフィックも当時としては群を抜いていて、町の路地裏から雑草まで、できる範囲で作りこんだ。

 ……エロゲーにここまでの予算と時間をかけるとか頭おかしいだろ、とはネットではよく言われていたものだ。


 そんな大好きだった『ファントム・エクリプス』の街中を、俺は今歩いていた。

 ……このゲームは日本を舞台にしたRPG要素のあるゲームだ。

 夜は魔物のような存在が活発化するので危険ではあるが、だからといって衝動は抑えられない。 

 まあ、表通りならば大丈夫だろうという気持ちで夜の街を歩いていたのだが。


「……あっ! ここは!」


 足が止まった。

 目の前に広がる風景――そこはゲームのプロローグで主人公が巻き込まれるあの事件の現場だった。

 ……おおおお!


 本当にゲームで見た世界が目の前に広がっているという事実に、俺は歓喜感激。

 薄暗く、危険な場所であることを理解していても、その路地裏に吸い込まれるように足を踏み入れた。


 俺の心は高鳴っていた。

 この路地裏で、ゲームの主人公がメインヒロインであるセラフかルミナスに出会うんだよな。

 ゲーム本編が始まるのは、俺が高校二年生になる来年だ。今から、その時が来るのが楽しみで仕方なかった。


「ちょうど、このあたりだよな。空から、セラフかルミナスが降ってきて――」


 俺がそんな気持ちとともに頭上を見上げた瞬間だった。


「「きゃああ!?」」


 二つの悲鳴が同時に聞こえた。

 見えたのは、可愛らしい白と黒のパンティー――ってそんなの見てる場合じゃねぇ!





―――――――――――――――


新連載です!


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