第33話 竜神の羽ばたき ②
「〇〇君、生徒会長に立候補してみたら?」
教室で集めたプリントを職員室に持ってきた僕に、すらりと伸びた脚を色ぽっくんだ〇〇先生が、光る靴の先端を僕に向けて回しながら聞いてきた。
「もう、役員選挙の時期だからね。」
「今の生徒会長は、1年からずっとやっているから、みんなに支持されているんだけれども、もう3年生だし、多分やらないと思うから、もしかしたらワンチャンあるかもしれないわよ。」
「それに役員になったら、内心書は グーッと良くなるから、おすすめなんだけど面倒くさいからね。」
「職員室の前に応募箱があるから、興味があるならやってみなさいよ。」
「あ〜これ、皆んなにも言っといてもらえる?」
「誰かが出てくれると、先生は嬉しいんだけどなぁ〜。」
立っている僕に、先生が下から魅力的な上目遣いで翻弄してくる。
「あっはははは〜っ、〇〇先生にこんなに頼まれたらやらないわけにはいかないな!」
横から現れた細いイケメンは、女の子に人気のある〇〇先生だった。
横から割り込んできたくせに、すでに〇〇先生の視線を僕から奪って、二人だけの世界を作り上げている。
これ以上は無いほどに、幸せそうな〇〇先生の笑顔だった。
もう僕のことなど見てもいない二人に、頭を下げてから職員室を後にした。
職員室の扉の横に、銀色の応募箱が備え付けてあった。
『これのことか。』
興味が無かったせいか、毎日通う職員室の前にこんな応募箱があることさえも、全く僕の目に入ってはいなかった。
帰りのホームルームで皆に向けて、先生の伝言を伝えた。
「生徒会役員の選挙が行われます。毎年恒例の全校生徒の思い出づくりを自らクリエイトしたい人は、この機会にぜひ生徒会役員に立候補して下さい。」
「立候補する方は、この用紙にクラスと名前を書いた投票用紙を、職員室の前に設置されている応募箱に◯月◯日までに投函しておいてください。」
僕が話を終えるとほぼ同時に、〇〇先生が生徒会の役職がいかに自分の役に立つかを話し始めた。
「内申書も良くなるし、と〜ってもおすすめなのよ。」
この話し方と熱の入れようは、間違いなく先生とって何かしらの理由があるのだろう。
〜〜〜〜
「年々盛り下がっている生徒会の役員選びは、候補者が集まらない時すらあります。」
「これは生徒の自主性を重んじている当校の校風とは、一線を画するものであり、今の現状は全く看過することができません。」
「よって、各クラスで無理矢理にでも、数名の候補者を擁立をして下さい。」
「いいですか?」
「候補者を立てるのが、君たちの使命であり、お仕事なのです。」
「のほほんと、生徒の自主性に任せていい状態ではないのです。」
「生徒には内申書という、我々でどうにでも操作できるウィークポイントが内蔵されています。」
「同時に、あなた方にも査定という弱みがあり、君たちの将来の出世や稼ぎにまでも直結していることを忘れないように、日々の教師生活に邁進をしてください。」
職員室での朝礼は、教頭による部下への脅迫からスタートした。
ざわりと波が高まったが、この教頭にはかつてそういうことを実施して、エリート高校からここに左遷されてきたという噂が、まことしやかに囁かれていたが、今、教員全員が噂の真偽を確認した。
逆に言えばここで実績を出せれば、将来の道が確実に広がることも意味していた。
男女平等がいくら唱えられていようとも、女性が男性と対等に向き合うためには、出世という実績と教頭のような実弾も装備しなければならないのだ。
私は、天から舞い降りてきたようなこの機会を、逃すわけにはいかないのだ。
〜〜〜〜〜
「クラス委員長の〇〇君と、副委員長の〇〇さんは、後で職員室に来てください。」
リスのような可愛い笑顔で先生が僕たちを呼びつけて、ホームルームは終了した。
「私、部活あるんだけど。」
〇〇さんは不満そうにつぶやきながら、早くしろと言わんばかりに僕をせっついてくる。
みんなが帰りの準備をしている中で、僕と〇〇さんは職員室に向かった。
「多分みんなは、生徒会役員には応募もしないでしょうね。」
「もし誰も立候補しないようであれば、あなたたちどちらかがクラスを代表して立候補をしなさい。」
椅子に座って脚を組んだ先生の、ツヤリと光る靴が僕らの前で揺れていた。
〇〇先生の目つきには、有無を言わせぬ迫力があった。
縮こまるように直立した僕とは対照的に、〇〇さんが声を上げた。
「私は、部活があるから出来ないんで、〇〇君にお願いしてもらってもいいですか?」
そう言って頭を下げると、くるりと後ろを向いて職員室を出て行ってしまった。
後に続こうとする僕の目は、〇〇先生の鋭い眼光からそらすことができなかった。
少しでも動けば、切っ先の鋭いしなやかな定規で、身体を打たれそうな気がしていた。
「じゃあ、誰も出なかったら、〇〇君が立候補してくれるわよね。」
職員室で遠巻きに見ている人間には、『お願い』と見えるかもしれなかったが、逆らえば何か 痛みを伴う罰がありそうな、かなり強制力のある頼み方だった。
スッと立ち上がった先生が、小動物のようなクリクリとしたつぶらな瞳で、僕を正面から見つめていた。
胸元のブラウスが少し開いていた。
僕の視線の先を確認してから、先生は僕の肩にそっと手を乗せて、自分に引き寄せるようにして僕の耳元に口唇を寄せた。
先生の開いた胸元が近づき、胸元の温められた空気が押し出され、大人の香りと香水の混じり合った温もりと色気が感じられた。
そして、耳元で吐息がこぼれた。
「いいわね。 きっと会長になりなさい!」
恐怖と緩和。そして命令と色気。
ピシャリと打たれるような恐怖の中で、僕は優しく命令されるとともに、その後のご褒美すらも提示されているような気がしていた。
顔を真っ赤にして喜ぶ僕に、〇〇先生はにっこりと微笑んで、再び脚を僕に向けて組んで座った。
先生は僕の股間が固く張り出しているのを艶かしく見詰めてから、つま先で僕をゆっくりとなで上にあげるような動きを見せた。
僕はそれを隠すことも忘れて、その部分が先生の足によってなで上げられているような快感が駆け巡っていた。
自然と呼吸が荒くなって、股間の奥底がジンとうずいていた。
僕は犬よりも従順な人間として、ガクガクと頭を上下に振りながら赤い〇〇先生の半開きの口唇を見つめていた。
誘惑に呑まれるように、僕は「分かりました。」 と答えていた。
つづく
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