第6話 猛毒に揺られて ①

「お兄ちゃん!、なんかくっさいよ〜!」

今日は見つからないようにと思っていたのだが、妹がパンツを洗っている僕を目ざとく見つけて声をかけてきた。

僕は、僕自身の体臭に慣れてしまっているのかもしれないが、妹は今確かに違うニオイを感じ取っているようだ。


「えっ!?、お兄ちゃんもしかして・・・」

僕がこそこそと洗っている物は、昨日は確かにタオルだと言っていたが、明らかにタオルとは違う形状で、このニオイとも合致する。


「・・・おねしょ?・・・した?」

眉間にシワを寄せて軽蔑しているが、心の奥底でウキウキと楽しんでいるのが、血の繋がりから手に取るように分かった。


「バカをいうなよ!」

全否定をすればするほど、妹の口元が楽しげに歪んでいく。


「お母さんに言わないであげてもいいんだけどな〜〜。」

妹は、何かを考えるような目で天井を見上げる。

「とりあえず、お風呂に入ったほうが良いと思うよ。」

妹がなにか勘違いをしているのは分かるのだが、これはおねしょとは違うニオイではないだろうか?

このニオイは、なにか青臭い、ハイターのようなそんなニオイではないだろうか。

ともかく妹の忠告に従ってリビングに入る前にシャワーを浴びた。


「なに、朝シャン?」

「色気づいているわねぇ。」

母が僕をからかうが、妹はニヤニヤと僕を見つめていた。

今後、何らかの要求が妹の口から飛び出してくるのは間違いなかった。


今日も早めに学校に向かう。

朝一で、本を読んでいるであろう〇〇さんに声をかけて、一緒にひと笑いしたかった。

夢の中では〇〇さんの綺麗な涙で幕がおりている。

あまりお話をしたことはなかったが、彼女の笑顔の表情も知りたいのだ。

そして、できることならば夢の続きをと、図々しい妄想を仲良くなりたい下心の更に奥に隠し持っている。


「おはよう。」

隣の席の女の子に元気に声を掛ける。

もう、おどおどしてはいない。

彼女がこちらを見つめ返して返事をくれることは、朝の心に太陽が差し込むようにウキウキとさせてくれる。


やはり本を読んでいる〇〇さんにも「おはよう。」と声をかける。

そのまま、まだ登校していない彼女の前の席に腰を下ろして、後ろを向いて彼女に話しかけた。


「何を見てるの?」

「・・・・・・。」


「僕も何かを読もうと思っているんだけど、何が良いかな?」

「・・・・・・。」


ほとんど面識のないクラスメートに突然話しかけられて、彼女はびっくりしたように僕の顔をじっと見つめてきた。

もはや、僕の考えてきた話のボキャブラリーは、いっぱいいっぱいだった。


「・・・〇〇さんと仲良くなりたくってさ・・・。」

言葉を無くして本音が口をついた。

彼女は少し笑いながら、読んでいた本のカバーを外して表紙と題名を見せてくれた。


『人を虜にする魔法の言葉』


「〇〇くんって気遣いができて、優しいんだね。」

「ちょっとカッコイイし。」

微笑みながら僕をからかうように呪文を唱える。

絶大な威力が僕の心臓を早鐘のように打ち鳴らした。

全身が雷で打たれたように痺れ、顔面が炎で焼かれたように熱く、耳まで赤く染まっていた。

恥ずかしさを隠すように下を向いた。

「ありがとう・・・。」

そうつぶやくのがやっとだった。


「これから声をかけてもいいかしら?」

彼女の提案に、僕は赤ベコのように頭をたてに振り続けていた。

僕は、完全に彼女の魔法にやられていた。



「朝シャンで調子こいたチキンが、朝からナンパかよ〜。」

わざと聞こえるように言う〇〇さんの声に教室にいたクラスメート達がドッと笑った。


「いいだろ!!」

〇〇さんを守るように立ち上がって叫んだ声は、チキンのように震え音程が上ずっていた。


「クソッ、クソッ、クッソ〜!!」

いい雰囲気をぶち壊されたのに腹が立ったが、それ以上にあの時ビビっていた自分に腹が立っていた。

〇〇さんは鋭い、何かを言えば十倍になって返ってくる。

しかも、間違いなく僕の弱い部分をえぐるように返してくるはずだ。

それに、僕は怯えた。

しかも、あの身体とあの美貌は、クラスメート達をからかっても反論ができないほどに成熟していた。

同じ学年であることが信じられないほどに大人っぽく、毒のあるあの声すらも魅力的だった。

〇〇さんを憎みきれない自分も、また悲しかった。

今日は朝から腹がたったので、エロいことを考える暇さえもなかった。


少しだけ考えたのは、僕をからかった〇〇さんの制服の下を直接見てみたい。

バカにされた相手だが、昔から彼女を思うと下半身がキュウと固くなっていたのだ。

昔は分からなかったが、今なら分かる。

僕は精通を果たす前から、彼女を女として意識していたのだ。


夜になるにつれて、あの魅力的なカラダが、僕の中で大きくなっていった。

あの体を自由に弄び、大人の楽しみを満喫してみたかった。

これ以上考えると暴発も有り得そうなので、今日はまだ早いが布団をかぶって羊を数える。

ふわふわとした羊が、あの子のまだ見たこともない、ふわふわのおっぱいに変わり、いくつも流れてきていた。

14歳。

この危険な性の奔流は、正常な感覚も押し流していってしまう。


猛毒に揺られて②へ

つづく

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