第3話 フレデリック

✳︎✳︎✳︎


アーサー、生きていてくれて嬉しい。



リディアも……これで幸せになれる。



これで、いいんだ。


離縁を告げたリディアは、瞳を潤ませていた。

余程、アーサーの無事が嬉しかったのだろう。


そして、この2年間は辛かっだだろう。


ずっと君を見てきた。


いつも図書室で見かけていた。気がついたら目で追うようになっていた。


リディアと話すきっかけが欲しくて、わざと君のお気に入りの席に座ったんだ。


それからは、ずっと君の隣に座るようになった。

楽しそうに笑うリディアを見ると、幸せだった。


君も同じ気持ちだといいな、と浮かれていた。


まさか、リディアがアーサーのことを好きだとは知らずに。


あの笑顔は、私だけに向けてほしかった。


悔しかった。


何も知らなかった自分が、馬鹿みたいだ。



アーサーはいい奴だ。


信用できる。 あの後も、何度も私にリディアに告白するよう言ってきた。

私の気持ちを知っているから、気を遣って。 ほんとにいい奴だ。



だが、アーサーがいなくなって5年。


私は、これはチャンスだと思った。


すまないアーサー。


友人の妻を奪う私は非道だ。許してくれ。


だが、どうしてもリディアのことが忘れられないんだ。



側にいたいんだ。大切にしたい。


せめて、決して触れることはしないと誓う。


この2年その誓いを守ってきた。



何度も破りたくなったが。


アーサー、お前を笑顔で出迎えられそうにない。


リディアを誰よりも見てきたのは私だ。



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