第2話

私とフレディとアーサーは、学園の同級生だった。



アーサーは騎士科、フレディと私は文官科だった。フレディとは、図書室でよく一緒になることが多かった。


いつも私はお気に入りの場所があって、定位置として座っていた。

そんなある時、私のお気に入りの場所に、フレディが座っていた。


別の席に移動しようとしたら、「いつもここに座っている方ですよね? 隣に移動しますのでどうぞ」と、席を譲ってくれた。




私のことを認識してくれていたことに、思わず驚いた。

それから自己紹介して、少しづつ話すようになるうちに、フレディの友人のアーサーとも話すようになった。



私達は、それから3人でいることが多くなった。

アーサーは図書室へ来ることはなかった。

本の匂いが苦手だからと。



そうして、忘れもしない運命の卒業式の日を迎えた。




勤め先もそれぞれ決まっていて、晴れやかな気分だった。



私は、ずっと胸に秘めていた想いを、あの日、あなたに伝えようと決心していた。


あなたなら、学園での最後に、図書室へ立ち寄ると思っていたから。


そして、いつもの場所に座っていると思った。


私のお気に入りの席の隣の席に。



式を終えて、あちこちで別れの挨拶をしている生徒達の横を通り過ぎて、私は図書室へ向かった。


いつもあなたが座っている場所へ、後ろからゆっくりと近づく。


正面から向き合うのがこわくて。




「好きです!」と、顔中真っ赤にしながら告白をした。


婚姻届を手に持ち、それを突き出すような姿勢で。



当時、学生の間でひそかに流行っていたのだ。



好きな人への告白する時に、自分の名前を記入した婚姻届けを渡すことが。


それだけ真剣な想いが伝わる、ということで。


受け取った側も署名をして、2人のどちらかが保管するのだ。いつかこの婚姻届を提出する日を夢見て。


振り返ると、とても危険な行為だ。


私は、身をもって痛感することになる。



「え、リディア?」



「ア、アーサー? なんでっ、ここに?」



机に突っ伏していたアーサーが、振り向いて私を見る。


その後、入口のドアから足音が聞こえた。

駆け出して行くフレデリックの後ろ姿が見える。



「フレディ、遅かったじゃないか、っておいどこ行く?……あー、リディア?

君の気持ちは、分かったよ」


アーサーは婚姻届を受け取ると、私の頭にぽんと軽く手を乗せてから、立ち去る。


呆然とする私は、脱力して床に崩れ落ちた。


どうして、確認しなかったの


フレデリックが机に突っ伏した姿を見たことないのに。


緊張して、きちんと見ることもできなかった。


まさかアーサーが座っているなんて、そんなこと想像もしなかったから。


あまりにも恥ずかしい。




間違いだとアーサーに伝えなければ

いけないのに、臆病な私はすぐにおいかけることもできなかった。



翌日、婚姻届を返してもらおうとアーサーを訪ねた。けれど、すでに遠征に出立した後だった。


その後、アーサーから手紙を預かっていると、フレデリックから受け取った。


内容は


「あの婚姻届は、提出するから心配しないで」



と、それだけ書かれていた。


いつアーサーが帰ってくるのか、不安な日々が続いた。


きちんと話し合いたいのに、どこにいるのかも分からない。


無事でいてくれたらいいと、友人として待っていた。


書類上は、あなたの妻かもしれないけれど。


帰ってきたら、何から話そうかと毎日毎日ずっと考えてきた。


5年過ぎた頃は、どこかほっとした自分もいた。


アーサーの行方が分からないのに、安堵するなんて私は酷い人間だ。


そんな時フレデリックから、プロポーズされて、嬉しすぎてもう死んでもいいとさえ思った。


例えそれが契約結婚だとしても。


フレディ、この2年間はとても幸せでした。


大好きなフレディ。


アーサーにどんな顔をして会ったらいいのだろう。


おかえりなさいと笑顔で言える自信がないわ。

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