この結婚は間違いじゃない
涙乃(るの)
第1話 リディア
「━━別れよう、リディア。
元々、この結婚は間違いだった。なかったことにしよう……。お互いの、いや、私達三人のために。
私の署名はもう記入してある。
リディア、後は君の署名だけだ。
署名を終えたら、私が責任を持って今日中に離縁届を提出してくる。早い方がいいだろう?」
「━━間違い?」
「あぁ、そうだ」
開口一番、夫であるフレデリックから離縁宣言をされる。あぁ……先程聞いた噂は事実なのね。どうして、今頃になってそんなことを言うの。 こんなにも、私はあなたのことが好きなのに……
「フレディ、本当に間違いだと思っているの?」
「リディア、私のことは、今後はフレデリックと呼んだほうがいい。アーサーが勘違いするといけない……私達が、愛し合っていると。
私達は、アーサーを裏切ってはいないのだから。
勿論きちんと、私の口からもアーサーには説明する。リディア、君は心配しなくてもいい。
私達は白い結婚なのだから。アーサーも理解してくれる。」
「アーサーが?」
「あぁ、リディアも新聞をみただろう?
アーサーが帰ってくる。7年だ……
無事で良かった。リディアも……本当は待っていたのだろう?
私は、君の気持ちを大切にしたい。
もう、私の役目は終わった。君を自由にしたい。アーサーの元に……戻るといい。」
じゃあどうして、そんなに苦悶の表情を浮かべているの?
ほんの少しも私への愛情はないの?
どんなに手を伸ばして触れようとしても、あなたはいつも私の手を取ってはくれない。
フレディの手元に置かれた新聞の見出しが、目に飛び込んでくる。
7年前、遠征に行って行方不明となっていた隊員が発見保護されたと。
ずらりと並ぶ名前の中に、私の元夫であるアーサーの名前もある。
━━生きていたのだ。
あれは7年前、隣国との諍いが絶えなかった頃。アーサーも国境付近の警備強化の為、駆り出されたのだ。緊張状態が続いて、隣国に捕虜として捕えられたり、殺された者もいる。1年後、和平条約が無事に結ばれて、徐々に兵士達も戻ってきた。
が、戻ってこない者もいた。アーサーもそのうちの一人。捕虜として連れて行かれたのかも不明。遺体を見た者もいなかったので、人目につかない場所で息絶えたのかもしれなかった。
2年、3年、4年と何の音沙汰もなく月日が流れた。この国では、配偶者が5年行方不明の場合は、離縁が認められる。
そんな5年目のある日、フレディから結婚の申し出を受けた。
「リディアが、いつまでもアーサーの帰りを待てるように結婚してほしい」と。
いつまでも、行方しれずの夫の帰りを待つかわいそうな妻。
実は、夫に捨てられたんじゃないかとか。
世間では色々と噂されていた。
世間の目から守るように、フレディは契約結婚の提案をしてきた。
「絶対に、あなたには触れません。白い結婚を貫きますから」と。
リディアとアーサーは、私の大切な友人だからだと。
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