16.Departure

都庁は案の定人でいっぱいだった。こんなにまだ生き残っていたんだと驚きを隠せない。海斗の提案で来たここはまさに移住準備の真っ最中という感じだった。あの放送で人間の心理を実験しようとでも思ったのだろうか。本当に移住しようとしているならもっと信憑性を持たせる言い方をすればいいのに。

「海斗、ここにいるのってどのくらいの割合の人なの?」

「俺も現在の正確な生存者数を知ってるわけじゃないからなんとも言えない。

だけど、100人くらいはここにいるからほとんどの人がもう集まってるってことだ。」

「もしかして、地球に残るのって…」

「俺たちだけかもしれないな」

「そうなんだね、」

「寂しいか?」

「全然。」

 正直2人だけが残ればいい、そう思った。きっと、移住についていけばここに残るより長く生きられるのだろう。でも私にそうする選択肢は残っていなかった。


 冷静に今の状況を分析することは難しいが、難しいなりにいろいろと思うことがあった。まず、そもそも都庁の前に集まる100人ほどの人々は本当に火星にたどり着けるのだろうか?火星まで人間を生きた状態で保ちながら行くにはかなり大きなロケットが必要になる気がするのだが、

「海斗、火星に行けるってほんとなのかな」

「わからない、だけど1つ言えることはこかに集まった全員が行くことは難しいってことだ。美咲は仮に火星まで行けるロケットが、あるとして、何人乗れると思う?」

「やっぱり20人とかしか乗れないかな…」

「最大10人だ。」

「そうなの?」

「ロケットの機体はたしかに重いが、だからといって中に入る人間が何人いてもスピード出力に誤差が出ないわけじゃない。その最大値と言われているのが10人、正直それでもギリギリだし、備蓄が足りるかっていう問題もある。」

「たしかに…え、じゃあ皆はどうするつもりなの?」

「あそこにいる人達がそれに気づけるほどの知識を持っているとは思えない。」


 するといきなり轟音が近づいてくるのがわかった。

 ロケットだ。

「海斗……」

「あぁ」

 そこにあるのはたった3つのロケットであった。たった3つと言っても通常の世界なら有り得ないくらいの凄さだ。こうして目にすることもきっと無かっただろう。

3つのロケットはいつの間にか運び込まれていた発射台に慎重にセットされ、その様子を全ての人が何も言葉を発することができずに見守っていた。それから乗車のための階段が設置され、燃料が補充され、備蓄が機体の中に運ばれた。一連の作業が終わって、1人の女性が人々の前に立った。ザワザワし始める大衆と引いた位置から見ている私と海斗、全人類がここに集結していると思うと不思議な感じがした。

そして女性は話し始める。声はあの時の放送と同じものだった。

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