13.Emigration

美咲と話したとき半日ぶりだというのに一年以上待ったような感覚だった。それくらい美咲が欠けたことのダメージが多かったのだろう。


いろんなことを話した。

そう、あの秘密のことも。

美咲は思っていた通り、少し驚いた様子で、でもすぐに納得してくれる。そんな反応だった。

自分でも思う、こんな嘘、つく意味あったのかなって。でも、そうじゃなければ美咲と関わることはできなかったのかもしれない。そんな風にも思った。


「海斗、」

そう呟く美咲は少し躊躇っていたようにも見えたが俺には関係ない。久しぶりに自分の本名で呼ばれるのは心地よかった。

「ありがとう、生きててくれて。」

「ううん。私こそ海斗がいてよかった。」

このまま時が過ぎればいいのに。この時はただそれだけを考えていた。美咲と自然と目が合う。平然を装ったもののかなり心が揺れ動いた気がしたのはここだけの話である。


…遠くに聞こえるサイレン音……


「ん?、何か言ってない?」

「どうしたんだよ美咲、何か聞こえるの?」

「え、うん。サイレンの音と誰かの声が……」

よく耳を澄ますと、確かに機械のような女性の声が微かに聞こえた。よく聞き取れたもんだ、そんなことも思ったがその前にアナウンスの内容に意識が行った。

市街地に鳴り響く声は粗方こんなことを言っていた。

「現在、生存されている皆様へご連絡を申し上げます。この放送は公的なものでないため放送による影響等につきましては一切の責任を負いません。

ただいま、ウイルス蔓延以前に開発が行われていた宇宙技術を活用しようという動きが始まっています。そこで、もういずれ住めなくなるであろうこの地球を離れ火星への移住をしようと考えています。早期出発に向かうため、明日の正午までに東京都新宿区都庁の前へお集まりください。お集まり頂けなかった方々につきましては大変申し訳ないことではありますがこの地球に残ってもらうということになります。何卒よろしくお願いします。なお、予めこの地球に残っていたいという方がいらっしゃいましたらそのまま残って頂いて結構でございます。その場合報告等は特に必要ありません。皆さん、人類存続のためにどうかこの計画への参加をよろしくお願いします。

最後に、繰り返しになりますがこの放送は公的なものではありません。

そして、一切の責任は負いません。失礼します。」

時々途切れたが大体はこれで合っているだろう。この放送……、くそっ人の恐怖感を煽るようなことしやがって……

「海斗…」

「分かってる、何も言うな。」

どうすればいい。幸いにも今いる場所は東京の中心近くだ。まず、あの放送を信じていいのか、あの声はわざわざ2回も繰り返した。これは公的な放送ではないと。

イタズラだと自分で申告したいのか?

いや、そんなことあるはずない、何かの狙いがある。

こんなときでもまだ機能していたTwitterでは#火星移住 がトレンド入りしていた。

検索数は100件ほどだったが、これでも生存者の半分以上である。

「ねえ、海斗。これ、信じていいのかな…」

「分からない、でも少しでも助かる可能性があるなら……」

「でも、これじゃ東京以外の人達はどうしろっていうの?」

確かに一番に出てくる疑問はこれかもしれない。けど、俺はその答えを知っている。

「東京以外に、もう生存者はいない………」

独り言のつもりだったが美咲にも聞こえていたらしい。

「え………じゃあ…」

「あーダメダメ、もう親戚とか何から思い出すんじゃねえ。そんなんじゃ、心が持たない」

「あ、うん…ごめん」

「だから、謝んな!」

「え………?」

「こんな時に謝んなって。せめて笑っててくれ、お前のそういう姿は見たくない」

勢いで言葉を並べたが、自分でも何を言ってるのか分からなかった。

美咲は静かに黙っている。

「ごめんな…、って俺の方が謝っちゃってるけど」  そう言って苦笑いをする。美咲もそれに合わせて少し口角を上げて、でもすぐに何かを失った顔に戻った。

結局、俺は人任せだ。でも…………、


「美咲。 美咲はどうしたい。」

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