11.Only One Left Lie

あぁ、美咲もひどい手口だ

そう思いながらアクセルを踏む。

こんなことされて、男はどうすればいいっていうんだ。

墓地を抜け、街まで飛ばすことにした。



一本道を走りながら、街までの距離がこんなにまで長いのだと初めて知った。

これは、街に行ってもいないかな……

再び期待が裏切られるのが怖くて心の準備だけでも、と自分を引き締める。

まだ心に虚無感が残ったままだ。それを埋めるにはどんな状態であったにしても美咲に会う必要があった。会って最後の嘘を晴らすんだ。

美咲が最も勘違いしているあるひとつの嘘を…

僅かな希望を持ってさらにスピードを速めた。



もうすぐ、街につくところだった。

うわっ!

つい声を上げてしまった。その訳とあれば単純、人が倒れているのだ。しかも華奢で本当にもう起き上がれないようだった。

もし、気づかなければ誤ってひいてしまうところだった。

ふぅー、息をつく。と、同時にあることに気づいた。


正直こんなところで再会できるとは思ってなかった。でも、見たところ美咲はもう帰らぬ人となってしまったのだろうか動く様子がない。

その痩せ細った体がこの世界の深刻さを体現していた。

街に辿り着けなかったのか……

こんな近くまで来たっていうのに、あと一歩届かなかったか……

街に入ればまだ人間に会えたっていうのに……


「ごめんな……美咲……」


語りかけても何も言わない美咲を見て、何かが頬を伝う。雨でも降ったのかと天を仰ぐが雲ひとつない夜空だ。それが涙だったと気づいた時にはもう遅かった。


「俺がもっと、早く来てれば……

ごめんな…、ごめんな……

ほんとにごめん……守ってやれなくて…」

いくら止めようと思っても止まらない涙が地面にこぼれた。プライドとか言ってられない。とにかく、俺はきっと、家族も超えて一番に大切だったものを失った。

「なんで、先に逝くんだよ……」美咲の体を揺さぶる、でも目は開かなかった。

脈の動きなんて、確認したくない…

これ以上好きな人の死を現実に、したくない…

えっ?

自分でも今の感情に、驚く。そっか、今やっと分かった。俺も好きだったんだな。

なんだよ、両思いなら早く気づけばよかった…

そしたら、もっと仲良くなれたんだろうな…


ダメだ、考えるのはもうやめだ。

思い出せば思い出すほど………そばにいる美咲に目が行ってしまう。そして、また涙が次々と溢れてくる。


ずっと、美咲に寄り添っていたかったが、一度車に戻ることにした。


車内でふと目を閉じる。


俺には昨日から抱き始めた、ある思いがあった。なぜ、それを美咲が死ぬまでに伝えられなかったのだろうか。伝えさえすれば、美咲も分かってくれていたはずだ。それなのに…


きっと、これを聞いたら美咲は驚くだろうな。

これを打ち明けた時の美咲の驚きようを想像すると気分が和んでくる気がした。

「なんで、そんなこと隠してたの?笑」

なんて言って、でもそっちの方がなんか似合ってるよ、とか言ってくれるんだろうな。


でも……それは生きていたらの話だ。もう何を妄想しても変わらない……。

もう一度道路に横たわる美咲を見つめる。

やっぱり好きだな……  

と、あることに気づいた。

……ん? さっきと体勢が違って見えたのは気のせいか?

まさかそんなわけ……、でもつい見てしまう。

一分間見つめ続けたが結局、体勢は変わらなかった。やっぱり空想を膨らませ過ぎだな、そう思って車のフロントガラスに目をやったその時、

「うわ…寒っ」

脇から寝起きのような声が聞こえた、それも聞き覚えのありすぎる声だ。俺はこの声をどれだけ求めていたのだろう、その声を聞いた瞬間に体が反射した。

「美咲…!?」

「ん…、あっ!……蒼!」

「生きてたのか……」

「え、あぁ…あまりに歩きすぎて疲れて寝ちゃったのかも笑」

「そっか、もう戻ってこないってずっと思ってた。」

「ごめんね…」

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